労働あ・ら・かると
「有給休暇5日取得義務化」を求人対策に活かそう
社会保険労務士 川越雄一
今までは、有給休暇(年次有給休暇)を法律どおり付与していれば、実際の取得日数までの制約はありませんでした。しかし、今年の4月からは年間最低5日間は会社の義務として取得させなくてはならなくなりました。
ですから、会社によっては大きな負担なのですが、ここは前向きに捉えて、求人対策に活かしてはどうでしょうか。
求人難の折、働く人の関心が高い有給休暇だからこそ工夫の余地が大きいのです。
1.会社によっては大きな負担?
有給休暇制度は労働基準法が制定された昭和22年からあったわけですから、これまで平均的に取得されていれば特段目新しいことではないはずです。しかし、今まで有給休暇を取得させていない会社にとっては大きな負担です。
- 10日以上付与された人に5日取得義務
『働き方改革』の一環として、今年4月1日以降に有給休暇を10日以上付与された人には、付与日から1年間に最低5日を取得させることが会社の義務となりました。働き方改革には8つの法律が絡んでいるのですが、昨年あたりからのご相談で多いのは、有給休暇の5日取得義務化に関するものです。
- こんなに休みが多いのに…
今は年間休日120日以上の会社も多く、3日に1日は休んでいるわけです。それなのに、さらに有給休暇の取得を義務化する必要があるのかと思われる経営者や管理者も多いのではないでしょうか。「休んでばかりで、いつ仕事をするんだ!?」。特に、筆者を含めて昭和の時代を生きてきた人間にはなおさらです。
- 今までなかった会社もある
世の中には「うちには有給休暇はない」と言い切っている会社もあります。もちろん、法律で免除されているわけではありません。知識不足などから単に与えていなかっただけなのですが、そのような会社にとっては今回の有給休暇の5日取得義務化は、まさに青天の霹靂(へきれき)ではないでしょうか。
2.有給休暇は働く人にとって大きな関心ごと
経営者や管理者と、一般従業員などとの有給休暇に対する関心度は大きく違うものです。そして、今年から始まった有給休暇の5日取得義務化は罰則もさることながら、世間の感覚が変わることに注意すべきです。
- 有給休暇への関心は立場で変わる
有給休暇というのは、堂々と休めて賃金まで通常どおりもらえるありがたい制度です。通常、従業員には勤務時間中、職務に専念する義務がありますから私的なことはできません。ですから、管理者より一般従業員、パートさんなどのように、立場的に勤務時間中の裁量が低くなるほど有給休暇に関心が高いのです。
- 世間の感覚が変わる
今回の有給休暇の5日取得義務化は罰則付きですから、キチンとした対応をしておくことが必要です。しかし、もっと注意すべきは、法律が変わると世間の感覚も変わるということです。今までは「うちには有給休暇はない」という言葉を何となく受け入れていた人たちも、次第に「何かおかしい」という感覚になりそれが世間の大勢を占めるようになります。
- 求人対策に目を向ける
有給休暇5日取得義務化について大きな負担になる会社もあります。しかし、今さら法律が後戻りすることはないでしょうし、有給休暇は働く人にとっては大きな関心ごとです。働く人の関心ごとだからこそ、求人対策の視点から取り組むことも有効です。求人難の折、有給休暇の取得しやすさなどを前面に打ち出し、競合他社との差別化を図るのも一つの手です。
3.このひと言が求人票でキラリと光る
働く人に関心が高い有給休暇ですが、ハローワークの求人票であれば、求人条件特記事項欄や備考欄などに、ひと言付け加えることで求人票がキラリと光るのです。
- 「有給休暇取得率100%をめざしています」
有給休暇の取得率は会社の方針で大きく変わります。会社が有給休暇を取ってほしくないなと思っていると、「何となく取りにくそう」という雰囲気になります。ですから、会社として具体的に有給休暇の取得率目標を打ち出すことにより、休みやすい会社、つまり働きやすい会社であることが伝わります。
- 「採用時に10日付与します」
もちろん、法律上は採用後6カ月経過後に10日付与で構いませんが、これでは競合他社と何の差別化にもつながりません。ですから、あえて採用時に10日付与にしてはどうでしょうか。採用後6カ月未満でも病気はしますし、私用で休まなくてはならないことがあるからです。特にパートさんなど、小さな子どもを抱えている人には働きやすさが伝わります。
- 「有給休暇取得計画表があります」
「有給休暇取得率100%をめざしています」という記載があれば、有給休暇を取りやすい会社だということは分かりますが、それをさらに具体化します。有給休暇取得計画表というのは、職場の上司や同僚に気兼ねなく有給休暇を取れるように、誰が、いつ有給休暇で休むのかを記入した表で、みんなに見えるよう職場に貼ったりしておきます。
有給休暇5日取得義務化は、会社によっては大きな負担かもしれません。しかし、有給休暇は働く人にとって関心が高いことから、これをプラスに捉えて求人対策に活かしてみてはどうでしょうか。