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新卒採用、企業の四つの戸惑い

就職アナリスト 夏目 孝吉

 ■夏のインターンシップも終わり、21卒の採用活動がスタートした。すでに大学では、秋の就職ガイダンスを実施し、就職対策講座も開講中だ。米中経済摩擦などの懸念材料はあるが、企業業績は好調で、新卒採用意欲は相変わらず旺盛の見込みだ。しかし、新卒採用については、就職環境の見通しの不透明性だけでなく、指針の廃止、採用日程の継続、通年採用の導入、1dayインターンシップの見直し、オリンピックの開催、就職ナビへの不信など新しい変化がみられる。こうした動きに企業は戸惑い、就活学生には、不安が広がっている。

(1)日程が読めない戸惑い 
 来年度の採用活動のスタートに当たってエントリーシートの受付から面接、内定までの選考フローをどう設計するかは、企業にとって大きな課題である。指針が廃止になったもののやはり採用活動にルールは必要ということで、政府は、3月広報活動開始、6月選考活動開始という従来の日程は継続したが、実際にはどう展開するのかはわからない。3月の広報活動開始とは、そもそもその定義が不明で、昨年夏のインターンシップのプログラムの多くが就業体験でなく、企業や仕事の紹介となり早期から企業情報が氾濫、ルールが形骸化していた。6月の選考活動開始も同様で5月末までに学生の半数は内々定を保有、6月1日の面接に出席することで即日内定となった。ここでも6月1日選考活動開始というルールは、形骸化されたが、表面上は、順守された。
 では、来年はどうなるか、あらたに政府によって示された採用活動の日程は、ルールというより目安だろう。企業としては、どれだけの企業が、どこまで順守するのか、皆目わからないが、採用効率の観点から昨年並みに展開すると判断し、とりあえず昨年と同じペースで採用活動をするとみられるが、学生にとっては日程が読めないとなれば年明けとともに就活を開始する動きもある。これに対応して企業が動けば昨年以上に早期化することになりかねない、そんな不安と戸惑いが企業の採用担当者の間に広がっている。

(2)通年採用に踏み切ることへの戸惑い
 指針の廃止とともに提案されたのが通年採用。これは、できる企業が取り組めばよいというものだが、例示されたグローバル職やITだけでなく、高度な技術職や法務、会計、統計、特許などの専門職も当然、通年採用のターゲットになるだろう。その採用は、就職ナビなどで広く公募するのでなく、リクルーターや紹介による早期からの採用活動となる。
 しかもその採用予定数、選考プロセス、採用終了などは外部からは全く見えない。この通年採用は、随時採用だけにその動きはライバル企業や学生にとっては常に気になる動きだ。すでに通年採用に取り組んでいる企業は、IT企業やファッション、ベンチャー企業などだが、今後は大手企業や大量採用企業も導入するとみられている。その多くは 一括採用と併用すると見られるだけにライバル企業としては油断できない。企業は、良い人材と見るや日程に関係なく早期内定を乱発し、早期に採用活動を終了するからだ。その一方、採用力が弱く、就職人気のない企業は、いつまでも採用活動を続けることになりかねない。しかし、手をこまねいているわけにもいかない。通年採用が広がれば、企業にとっては優秀人材だけでなく、すべての人材を日程に関係なく採用しなくてはならなくなる。しかし、通年採用に踏み切っても優秀人材をどれだけ採用できるのか、採用体制はどうするのか、入社まで辞退者を出さずに採用できるのか、どうすれば大手企業や人気企業に対抗できるのか、一括採用はどうなるのか、そんな戸惑いが多くの企業にある。

(3)インターンシップ見直しの動きに戸惑い
 今年も夏のインターンシップを多くの企業が実施していた。文科省の調査(*1)によれば、8月中旬までにインターンシップに参加した学生は6割に達し、その9割は、1dayインターンシップだった。こうした1日限りのインターンシップの内容は、本来の目的である就業体験型でなく、多くが会社説明会型だった。さらに一昨年からの傾向だがインターンシップ開催が夏から春に重点が移ってきている。企業が、夏インターンシップ参加者を囲い込み、春からの選考に結びつけたからだ。それが、来年の2月から本格化する春インターンシップだ。
 しかし、こうしたインターンシップの変質に政府や大学団体が健全化に乗りだし、就業体験とは程遠い1dayインターンシップの名称変更、採用直結となる春インターンシップの廃止を強く要請するようになった。この要請に強制力や罰則はないが、企業にとっては、大学教育の充実を要求しているだけに採用活動の軸になったインターンシップの是正をどこまで図るか、選考フローの見直しとともに戸惑っている最中だ。

(4)AI採用導入に戸惑い
 エントリーシート審査や面接などでAIを使う企業が増えてきた。しかし、各種調査では、学生たちのAI採用に対する評価は、あまりよくない。
 ある調査(*2)では、エントリーシートをAIで選考することについては、賛成24.2%、反対34.6%と反対が多く、面接については、賛成17.7%、反対34.6%と反対が倍もあった。その反対理由は、機械採点に対する不満であり、評価基準の不透明さだった。
 だが、応募者数の多い企業では、採用業務の軽減、効率化、人物評価の公平性などからAIツール活用の魅力は大きく、導入を検討している企業は少なくない。
 そうした最中にリクナビの内定率辞退予測問題が発生、学生の間に就職サイトだけでなくAI採用をする企業への不信感も生じている。企業としては、今後、AI採用への不信感をどう除去するのか戸惑っているところだ。

(5)オリンピックへの不安と戸惑い
 企業の採用担当者にとって来年夏に開催されるオリンピックへの不安、戸惑いもある。開催時期は7月中旬から8月上旬なので21卒の採用活動に直接の影響はなさそうだが、5月連休後になると企業や学生の動きがあわただしくなり、採用活動の早期終了という動きが予想される。そして22卒については、夏インターンシップが開催できるかという大きな課題もある。
 これも先の文科省の調査だが、オリンピックに関連して就職活動について不安があるかを大学に聞いたところ、「ある」という回答は、33.3%もあった。その不安として、企業の採用活動の早期化、短期化、交通手段の確保、宿泊施設の確保、学生の費用負担増、就職活動時期と大会ボランティアの重複、インターンシップの機会減少など多くの懸念があげられていた。これに対して大学として特別な対応を聞いていたが、「ない」という回答が83.0%と圧倒的多数で、「ある」という回答は、12.7%しかなかった。

★このように来年の採用について企業は、採用日程の明確化や通年採用への期待や不安、インターンシップの見直し、AI採用や就職ナビへの不信などの不安と戸惑いを数年先まで見据えたうえで大学とともに具体的な対応策を考えなくてはならないだろう。

(*1)「2019年度 就職・採用活動に関する調査結果」2019年10月30日 文部科学省
(*2)「新卒採用戦線 総括2020」2019年10月15日 文化放送キャリアパートナーズ