労働あ・ら・かると
「働き方改革」が街の景色を変えている
一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二
「働き方改革」は「雇い方改革」であり、それは「会社の改革」となり「社会の改革」につながっていくのではないか、筆者はそう感じています。そしてそのことが「街の景色」の中に垣間見えるようになってきているとも思います。
現在放映中のNHK大河ドラマ「いだてん」の中に、幻の(戦争によって返上せざるを得なかった)1940年東京オリンピックの頃の街の姿を見、そして筆者の記憶にかなり鮮明に刻まれている1964年東京オリンピックの時の街の急な変化の様子、そしてまたいよいよ来年に2020年の東京オリンピック開催が迫ってきている中、昭和、平成、令和と三世を見渡し振り返ると、その時々の「働き方」の変遷にも想いを馳せることが多くなります。
石油ショックの頃進んだ定年延長(55歳→60歳)、海外からの「働き過ぎ批判」をかわすかのように国民の祝日が増え、昭和の終わり頃から進みはじめた「男女雇用機会均等」と過去を振り返っても、今ほど人々の「働き方」の変化が街の風景を変えていたとは思えません。
自動車が増え、新幹線が各地に走り、あの頃は「成長」が、街の姿を変えていたように思います。
「働き方改革」という言葉を最初に耳にしたとき、「へぇ。『保守』党が『改革』を口にするんだ。」という声も聞こえなかったわけではありませんが、しかし昭和の都会の朝の風景に、今ほどさっそうと自転車の前後ろに子供を乗せて保育所に預けに行き、その足で駅前の駐輪場に自転車を止めて出勤するお母さんは、そう見かけませんでした。また、数はまだまだ少ないですが、平日でもカンガルー抱っこをした若い父親の姿を見かけます。育児休業の男性取得の街の姿です。
24時間働くモーレツ社員の数はずいぶん減ってきていて、定時退出によって街の居酒屋も夕方早くから混み始めているようにも思います。
羽田空港や成田空港や新幹線東京駅ホームでも、修学旅行生に混じって、出張らしき女性の姿も目につき、飛行機の中や列車の中でもパソコンを開けて仕事をしている光景が珍しくなくなりました。このような光景も昭和には見られなかったと思います。
「働き方改革」の背景には少子高齢化社会の到来があることは論を待ちません。女性、高齢者の労働市場への参加、外国人材の招請、そしてテクノロジーを駆使しつつ「人間でなければできない仕事に人びとが従事する」こと、それぞれが既に街の風景を変え始めていることは、読者のみなさまのまぶたの裏にもたくさん浮かぶことと思います。
過日地方都市を訪問した際、会食の後にホテルに戻ろうとタクシー呼んでもらおうとしたら「今は手配できません。空車がありません。」と言われてしまいました。すぐそばにタクシー会社があり、タクシーがたくさん並んでいるのに、です。そういえば天井についている会社のマーク灯も車内も電気は点いておらず、暗い車体が並んでいるのでした。なんでも運転手不足で、タクシーの車体はあっても稼働できないのだそうです。軽自動車を含めて「一人一台」が普及した地方都市では、ただでさえ少ない運転人材が「運転代行」に流れてしまうそうで、タクシー運転手の人手不足が光景として目に見える場面でした。
先日総理大臣官邸で開催された「全世代型社会保障改革に関する総理と現場との意見交換会」の席上、安倍首相は「今まで社会保障制度改革といえば年金、医療、介護であったわけでありますが、今回は働き方を含めた改革を行っていく。」「人生100年時代を踏まえて、どういう働き方をしながら、その中で様々なステージがあるんだろうと思います。その中で、病気になったときはどういう働き方をするか、介護が必要なとき、あるいは結婚、出産、それぞれのステージでどういう働き方ができるか、それと年金との関わり合いも出てくるんだろうと、こう思うわけでございまして、今回は年金、医療、介護そして働き方も含めた改革を進めていく。」と述べました。
まさに「働き方改革」を「社会の改革」につなげていく姿勢に見えます。
もちろん「働き方改革」は緒に就いたばかりで、まだまだ十分に社会の隅々まで行きわたっているわけではありません。厚生労働省が毎月発表する「毎月勤労統計」を見ても、「常用雇用」の増加が一般労働者(パート労働者を除く)の常用増加よりはるかに大きい「パート労働者の常用雇用」の増加によって支えられているように見えますし、「フリーランス」という耳ざわりの良い呼称の「不安定雇用」も随分増えているようにも思います。
社会が変化するときには、その変化に取り残される人々にしわ寄せがあることは、歴史を紐とけばいくらでもその例が挙げられます。これからの「働き方改革」の具体化にあたっても、「街の景色」の中には見つけにくい人びとの存在を忘れず、できる限りの手を差し伸べる政策を忘れないよう期待したいと思います。
(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)