労働あ・ら・かると
いきなり管理職採用はココに注意しよう
社会保険労務士 川越 雄一
いきなり管理職として採用された人と今いる生え抜き従業員との確執(かくしつ)で、組織がギクシャクするというのはよくある話です。
そして、「あの部長ではやっていけません!」と選択しようのない選択肢を突き付けられることも少なくありません。仮に今いる従業員の意見を尊重したとしても、また同じような問題は起きてしまいます。
1.「あの部長ではやっていけません!」
A社では、従来から他社の定年退職者を総務部長として採用し、だいたい4~5年勤務してもらっています。もちろん、総務部長とはいっても、実際は事務作業も多く、部下は女性ばかりが3人です。いずれもA社の生え抜きであり、性格は少々きついものの総務部門の業務を一手に担っています。
今回採用したBさんも、前職の会社を60歳定年まで勤め上げた人で、A社長が知り合いに頼み込んで採用したものでした。
問題が表面化したのは、Bさんが入社してから3カ月ほど過ぎた頃でした。「あの部長ではやっていけません!」と、3人の中で一番勤務歴の長い従業員が社長に直談判してきたのです。その言い分は次のようなことでした。
・自分たちに相談しないまま、何でも好き勝手にやる
・判断を仰ぐとフンフンと生返事しかしない
・社内外の会議などには出席するが、結果について部内へのフォローがない
・仕事中にインターネットばかり見ている
・外部の人と自分たちへの対応が極端に違う
そして、その従業員は「このままなら自分は辞める」と言いだしたのです。社長は「もう少し長い目で見てくれないか、それができないのなら、あなたが総務部長をやるか」と尋ねれば、「それはできない」とキッパリ。
知らず知らずのうちに社内はギクシャクし、Bさんの表情も次第に暗くなってきました。
さらに、3人のうち1人が半年後に出産予定であり、その後、産休、育児休業に入ることが分かりました。「さてさて、どうしたものか……」
2.いきなり管理職で失敗する3つの理由
いきなり管理職採用で失敗する主な理由としては、肩書を採用してしまう、現状を変えたくない今いる従業員の抵抗、そしてコミュニケーション不足の3つです。
- 能力ではなく肩書を採用してしまう
本来であれば、自社でコツコツと経験を踏ませて育成し、それに見合う肩書を与えるべきでしょうが小さな会社では、いわゆる肩書を採用してしまうのです。もちろん、その肩書にふさわしい働きをしてくれれば良いのですが、そのような保証はどこにもなく、どちらかといえば、期待することを肩書に託すようなものです。
- 現状を変えたくない今いる従業員
仮に採用した人が優秀でも、そこに立ちはだかるのが、現状を変えたくない今いる従業員です。小さな会社は人事異動もほとんどなく、人に仕事が付いているようなものですから、外部から腰掛け的に採用された人のやることなすことに抵抗を示すのです。こうして、管理職より偉そうな平社員という組織になるのです。
- コミュニケーション不足
コミュニケーションというのは「情報」と「感情」のやり取りとも言えますが、問題事例の場合もこれの不足が考えられます。いきなり管理職で採用されるのは、多くの場合60歳以上でそれなりの経歴を持つ人です。そうなりますと、「私は分からないことも多いので教えてくださいね」のひと言が出にくく、コミュニケーションの入口が閉ざされやすいのです。
3.採用前にこれだけはやっておく
採用後にギクシャクとなった組織を改善するのは至難の業(わざ)であり、採用前の対策が大原則です。主には次の3つが考えられます。
- 採用の目的・役割をキチンと伝える
どのような目的・役割で採用するのかを、本人はもちろん今いる従業員にも目的や役割をキチンと伝えておきます。たとえば、関係者全員参加の事前打ち合わせは必須でしょうし、総務部長といっても新入社員でもあるわけですから、今いる従業員へ対して「教えてください」という謙虚さも必要であることを諭(さと)します。
- 仕事の内容を具体的に伝える
お互いに求めるもの、求められるものを理解しておかないと採用後に「こんなはずじゃなかった」ということになります。小さな会社では部長とはいっても部下の管理監督というだけでなく、その多くは自ら仕事をこなすプレーヤーでもあるわけですから、部長職として、またプレーヤーとして何をしていただくのかを極力具体的に示しておきます。
- 多少の「ヨイショ」も必要
新入社員とはいえ60代で採用された人であり、今いる従業員より年上であることが多いのです。そうであれば人生経験を尊重し多少の「ヨイショ」も必要でしょう。「さすがですね」と言われれば、そうではなくても、そうなるように努力する可能性だってあります。このようなことでも、期待以上の働きをしてくれることがあるのです。
肩書というのは不思議なもので、それにふさわしい仕事をしてくれると思いがちですが、そのような保証はどこにもありません。ですから、採用前に採用目的や仕事の内容をキチンと示し、お互いの立場を理解するなどコミュニケーションが必要不可欠なのです。