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ハローワーク求人・求職情報の民間提供

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

 

 ハローワークは2014(平成26)年9月から、地方自治体や民間人材ビジネス事業者に対して、求人事業主の了解を得られた場合、その保有する求人情報を提供しています。
 この検討が始まったころ、筆者は「地方自治体に提供された求人情報は、それなりに活用されるだろうけれど、民間ビジネスではうまく活用できるだろうか?」「ハローワークでの就職転職チャンネルを利用する人びとの層と、民間人材紹介事業者を利用して就職転職をする人びとの層は異なるのではないか?」という疑念を捨てられませんでした。
 2013(平成25)年6月に閣議決定された日本再興戦略の中で掲げられた、「民間人材ビジネスの活用によるマッチング機能の強化」の取組のひとつとしての議論があったと記憶しているのですが、その中には「国民の税金や雇用保険財源を使って集めた求人情報を、民間人材ビジネスの金儲けの材料にするのか。」といった批判が聞こえたこともマイナス要素のように感じた理由です。

 しかし今春の公表された資料を見ると、筆者の懸念は外れたようで、平成29年度1年間ではこの提供された求人情報に対して、採用決定することができた数は6,821件に上りました。筆者の予想のように一番実績を上げたのはその6割近く(3,996件)を地方自治体が、続いて学校等が1,947件で併せて87%を占めたのですが、民間職業紹介事業者も878件と健闘したのです。しかもそのうちの640件は「有料職業紹介事業者」が決定したというのです。
 ハローワーク経由では充足できなかった求人を、民間事業者が紹介就職に至らせることが出来たこのことをどのように理解したらよいのでしょうか? 求人者にとってみれば多少コストがかかっても事業に必要な人材を確保できたということは、「ハローワークには求職登録していない人材を、民間職業紹介事業者は保有していた。」という見方もできるのではないでしょうか。
 採用決定者について、自治体経由は60歳以上の割合が最も高く(約34%)、50代を入れると約5割を占める一方、民間人材ビジネス経由では、40代の割合が最も高く(約27%)、60歳以上の割合は低い(約9%)。また、性別については、自治体・民間ともに女性の割合が高いと、報告されています。もっとも「ハローワークより民間人材ビジネスのほうが、紹介者就職者の女性比率が高い」ということは、4年前のJILPTによる「入職経路の変化と民営職業紹介業に関する調査」でも指摘されているので、そう新たな事実ということでもなさそうです。

 引続き推移を確認する必要はあるでしょうが、当初の筆者の疑念は杞憂のようで、求人者にとっては、少子高齢化の中、事業経営に必要な人材を確保できたわけですから、まずまずではないかと思うわけです。

 しかし、その1年半後に開始された「ハローワークの求職情報」の提供は、ほぼ全く成果を上げていないのではないかという状況です。
 なにしろ開始後2年半(平成28年度から30年度上半期まで)で、採用決定数は13件しかないのです。その内容は、民間職業紹介事業者が12件(あと1件は地方自治体)と健闘しているようにも見えるのですが、求人情報提供の成果と比べると情けない結果です。

 その原因はどこにあるのか資料をよく見ると、ハローワークを訪れる求人者と求職者の意欲に差があるのではないかと思える数値が報告されています。
 ハローワークの求人情報については、地方自治体も含めると全体の約78%が事業主の了解(希望)によりオンライン提供されています。民間人材ビジネスに限定すると、約38%となってはいるものの、相当数の求人情報が地方自治体や民間人材ビジネスに提供されて前述の成果に結びついていると見て取れますし、それだけ求人者は人材確保に必死だとも言えると思います。
 しかしそれに引きかえ求職情報については、新規求職者の約1.1%しか求職情報の自治体や民間人材ビジネスに提供されていない(希望していない)現実があり、なんと地方自治体、民間人材ビジネスともに情報提供を不可としている者の割合は約87%となっています。この母数では決定員数が全国で年平均5人となってしまうのも無理からぬと思われます。

 ハローワーク以外に情報提供を希望しない企業の多くは、事業所名等を公開すると、求職者だけでなく、派遣会社や人材紹介会社、求人誌等の営業担当者からのしつこい営業で業務に支障が出た苦い経験があるという話も聞きますが、有料でも人材を確保できた求人者からすれば、そこをきちんとコントロールして人材確保に結びついたのではないかとも言えるのではないでしょうか。
 翻って求職者の情報提供の現状は、うがった見方かもしれませんがハローワークを訪れる人材の「就職本気度」が足りないのではと思いたくなります。
 日本のハローワーク運営の長所としてよく挙げられるのが「求職活動と雇用保険受給のワンストップサービス」ということですが、今回のデータを見る限りハローワーク来訪の主眼は第一に「雇用保険の受取り」であって、「就職活動」は二の次になっているのではないか、あるいは新規求職段階では、のんびり構えていて、雇用保険支給が終わりそうになって初めて就職活動の腰をあげる求職者が多いのではないかとすら、想像してしまいます。

 即断は禁物ですし、せっかく始まったこの仕組みですから、求職者が容易に利用できるマッチングのチャンネルを広げ、国・地方自治体・民間人材ビジネスがそれぞれの役割と機能に応じた連携を強化することはますます必要だと思いますし、外部労働市場全体のマッチング機能の最大化を図る目的を実現するために、個人情報・企業秘密に配慮しつつも、もう少し掘り下げた追跡調査の公表も待ちたいと思います。

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)