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労働あ・ら・かると

重要なことは言って聞かせて、見せておこう

社会保険労務士 川越 雄一

 現在、新型コロナウイルス感染拡大が続いており、会社でも厳しい行動制限が求められています。もちろん、毎日、ニュースでも取り上げられていますので、従業員みんなが理解し、行動してくれていると思いたいところです。しかし、現実にはその立場により感じ方が大きく違っていることもよくあります。
ですから、今回のような従業員の安全にかかわる重要なことは口頭だけでなく紙に書き、貼り出して周知することが重要なのです。

1.励行・禁止事項は紙に書いて貼り出す
口頭だけだと言い違いや聞き違いもありますから、会社としての励行事項と禁止事項を、具体的に言って聞かせて、紙に書いて見せておくことが必要です。
●言って聞かせる
今回の件は人命にかかわることですから、トップ自らが自分の言葉で、会社としての方針を示すべきです。朝礼の場など、小さな会社ならすぐできます。トップが伝えることで危機管理に対する姿勢や緊迫感が従業員にも伝わりやすくなります。ただし、口頭の場合は言い違いや聞き違いもありますから、これだけでは不十分です。
●紙に文字で書いて貼り出す
トップが口頭で伝えたことを紙に書いて貼り出します。そして、誰もが目にする場所に貼り出します。タイムカードの横やトイレの入口でも良いと思います。いつも目に触れることで潜在意識に刷り込むことと、周知していたことの証拠にします。
例えば次のような内容です。

(以下、文例)
「大切な家族や仲間を守るためにご協力をお願いします!」
①熱が37.5℃以上ある日は出勤しないでください。もしくは勤務中に発熱したら退勤してください。
②マスクを着用してください。
③勤務中、休憩時間中は1メートル以内で15分以上の会話や接触はしないでください。
④リスク分散の観点から、AさんとBさん、CさんとDさん、EさんとFさん間における上記③の接触は意識して避けてください。
⑤手指の消毒、うがいをお願いします。
⑥業務の都合を考慮して、できるだけ有給休暇を取得してください。
⑦その他、自分が感染していることを前提に行動してください。
(以上、文例)

2.立場で感じ方に温度差がある
会社には大きく経営者(管理者を含む)と従業員という立場がありますが、会社存亡をはらむようなリスクの感じ方にも温度差があるものです。
●経営者はピリピリするも
立場により責任の度合いはまったく違います。その度合いがリスクの感じ方に違いが出ます。平常時はあまり感じませんが、今回のような非常時にはそれが如実に表れます。従業員によっても正社員、パート、アルバイトなど立場の違いにより、さらに温度差が広がります。「えっ、まさかこの時期に〇〇へ遊びに行くなんて」ということもあり得ます。
●「自分は大丈夫」
今回のように、人命にかかわるような事態がひっ迫した状態においても「自分は大丈夫」という人はいます。これを心理学用語で「正常性バイアス」といい、災害時の被害を大きくする要因の一つです。会社から1、2度言われたところで、口ではともかく腹の中では「自分は大丈夫」という人もいます。
●分かっていそうで分かっていない
今は連日、テレビなどで不要・不急の外出を自粛要請されていますから、当然みんながそのような意識かと思えばそうでもない人もいます。先日も報道されていましたが、感染したことを知りながら通常どおり多人数で飲食したり、公共交通機関で移動した人がいました。分かっていそうで分かっていないのです。

3.「分かっているだろう」は通じない
新型コロナウイルス感染を完全に防ぐことはできないでしょう。
重要なのは、会社としてどこまでの安全対策をとっていたかを客観的に示せるかどうかです。
●「理解していないかもしれない」を前提にする
基本的に、従業員は経営者が考えているほど、リスクを「理解していないかもしれない」を前提にすべきです。仮に理解していたとしても、会社が考えているように行動してくれる保証はありません。程度の差こそあれ、それが現実です。まして、休憩時間や勤務時間外は管理不可能です。
●問われる会社の安全配慮義務
労働契約法上も、「使用者は,労働契約に伴い,労働者がその生命,身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう,必要な配慮をするものとする」と規定しています。ですから少なくとも、「3密」の回避など、国が公表している予防策は講じておく必要があります。
●世間は手のひらを返す
仮に社内で感染者が出たらどうでしょう。会社としても当然、「日頃から注意していた」というくらいの抗弁はできると思います。しかし、口頭だけだった場合、それを客観的に証明するのは困難です。そして、「今どき、そんなこともしていなかったのか、あの会社」と、世間は手のひらを返すのです。感染は仕方ないとしても、事前と事後の対応が重視される時代です。

新型コロナウイルス感染拡大の予防策について、社内での周知状況を今一度見直しておきたいものです。