労働あ・ら・かると
パートさんの「何で」を「だから」に変えよう
社会保険労務士 川越 雄一
有期雇用の非正規社員と正社員の待遇格差について、不合理かが争われた訴訟の最高裁判決が先月10月13日と15日に出ました。その判決内容については意見の分かれるところですが、「同一労働同一賃金」に関する法律も2020年4月から施行(中小企業は2021年4月)されており、待遇格差について今後はますます関心が高まると思われます。特に、多くの会社で働いているパートさんについては、人手不足でもあり離職防止の観点からも工夫が必要です。
1.「何で、パートなのに……」
待遇格差にかかわる紛争の始まりは働く人の「何で」が起点となっています。つまり、担う仕事と待遇のバランスを納得できずに不満となって顕在化するのです。
- 何で、パートなのに正社員並みの仕事を
何年か前に「パートさんに正社員並みの仕事をしてもおう」というようなことが持て囃(はや)されたことがあります。確かに、正社員の半分程度の人件費で正社員並みの仕事をしてくれれば、こんなにありがたいことはないのですが、そもそもそのような一方だけに有利な話には無理があったのです。
- 何で、パートなのに労働時間が正社員と同じ
パートさんというのは短時間労働者ですから、本来はフルタイムの正社員に比べて1日もしくは週の労働時間が短い人です。しかし、呼称はパートさんであっても、労働時間は正社員と同じという奇妙なことがあります。そうなると、正社員との違いは賃金が月給か時給の差だけだったりします。
- 何で、パートなのに残業が
忙しい時期は残業や休日出勤も仕方ないところがあります。しかし、正社員ならともかくパートさんにそれを求めるのは酷です。
業務が忙しいことは理解してくれるでしょうが、それはそれ、自分が残業できるかどうかというのは別問題です。そもそも、空いた時間を利用して働いているパートさんにとって、残業や休日出勤は想定していないはずです。
2.「何で」が強くなると「だったら」ということになる
「何で、パートなのに……」という思いが強くなると、「だったら辞めます」ということになるでしょうし、働き続ける場合には「だったら仕事に見合う待遇をしてください」となるのが必定です。
- 「均等待遇」と「均衡待遇」
「均等待遇」というのは、業務内容や責任の程度、配置転換など人材活用の仕組みが同じであれば非正規社員の待遇について、正規社員と同じ待遇にすることです。「均衡待遇」というのは、業務内容や責任の程度、配置転換など人材活用の仕組み、運用その他の事情に違いがある場合は、違いの範囲に応じた待遇をすることです。
- 「何で」を納得させる説明は難しい
法律では「均等待遇」「均衡待遇」をしない場合は、採用時と求められた場合に理由を説明しなくてはなりません。パートさんが「何で」と思っている場合は、自分の待遇に納得していないわけで、会社に対して不信感や不満がありますから、「均等待遇」「均衡待遇」をしない理由を説明し納得させるのは至難の業です。
- 罰則はないものの
同一労働同一賃金は、「パートタイム・有期雇用労働法」という法律に定められていますが、違反しても罰則はありません。しかし、正社員と同じような働き方をしているパートさんが、待遇格差に不満を持って訴えた場合は、裁判などで白黒つけることになります。場合によっては罰則より重い負担となることもあります。
3.「だから」だと納得してもらう
「仕事の内容が正社員に比べれば軽易だし融通も利く。だから待遇もこれくらいで良い」というように、バランスが取れていれば納得してもらいやすいものです。
- 正社員並みの責任などを押し付けない
仕事の違いを明確にすることは難しいと思いますが、意識して区別します。例えば、パートさんにはクレーム対応をさせない、ノルマは課さない、配置転換は行わない、というように誰が見ても職務内容の違いが分かるようにしておきます。逆に、正社員のレベルアップを図り、パート風の正社員をなくすことが重要です。
- 時間外労働・休日労働はさせない
パートさんにとって大きなメリットは、定時で仕事が終わることですから、時間外労働・休日労働があるとパートとして働く意味がないのです。ですから、終業時刻になったらサッと帰っていただきます。中途半端に時間外労働を黙認したり、こちらから頼みこんで残業をしてもらったりしていると、本人ばかりかその家族から不満が出ます。
- 有給休暇は「はい、どうぞ」
有給休暇は正社員以上に便宜を図ります。パートさんがパート勤務をする大きな理由は休みやすさですから、有給休暇取得届が出されたら、にっこりしながら「はい、どうぞ」くらいでちょうど良いのです。多くのパートさんは、子育て中ですから学校行事への参加など、有給休暇が気兼ねなく取れることがありがたいのです。
今後、同一労働同一賃金に関するもめ事は増えると思います。それを防ぐには、仕事と待遇のバランスを図り、働く人が待遇について「だから」だと納得してもらうことが重要になるのではないでしょうか。