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21採用活動の不安と課題

就職アナリスト 夏目 孝吉

■新型コロナウイルスの大流行で日本経済は大打撃を受け、企業経営ばかりか、国民生活のあり方やグローバル化、5G社会への移行、働き方などが大きく見直されている。そうした中で雇用をめぐる環境も変化しようとしている。コロナの収束が見えない現在、企業にとって21採用はどうなるのか、当面する不安と課題について探ってみよう。

 

1.採用計画決定は不透明だが抑制へ

年末から年初にかけてコロナ汚染が爆発的に拡大、1月上旬に緊急事態宣言が発令されたことで多くの企業は、中長期的な事業計画が立てられず当面の新卒採用計画も不透明になった。22卒の採用計画については、昨年10月のマイナビ調査(*1)では、採用増とする企業が15.7%に対して採用減の企業は21.1%と採用数をやや抑制する動きにはなったが、採用計画が大きく後退することはないとみられていた。

しかし、年末から旅行、レジャー、外食、商業、生活サービスなど新卒者を大量採用してきた業界の採用抑制に加えて製造業や金融業も業績悪化に伴って採用中止や大幅減の動きを見せ始め、これまでの売り手市場は一気に暗転、第2の氷河期世代を生むことにもなりかねない状況となった。専門家のくは、「新卒の採用中止や大幅減は、組織の世代構成を崩すことになる」という理由で、企業は極端に採用数を減らすことはないと指摘するが、事ここに至っては、根底から採用計画を見直し、「全く未定」とする企業が続出する気配だ。

すでに22卒の採用活動はスタートしているが、どの企業も1月末には決定する予定だった採用計画は「未定」として、当面は暗中模索のまま採用活動をしているというのが現状だ。

*1. 『マイナビ2021年卒企業新卒内定状況調査』2020年10月

 

2.採用活動の日程は昨年同様

採用計画は未定だが、採用活動の日程は昨年と同じペースだ。コロナ汚染が沈静化しない現在、多くの企業は、オンラインを駆使して従来の「指針」に準じた日程で着々と22卒の採用活動に取り組んでいるからだ。とくに採用活動の出発点である20年夏のインターンシップは、コロナの最盛期だったが、多くの企業が、例年通り実施、母集団づくりを終え、昨年末から相当数の学生とのオンライン接触を開始、3月から面接、6月には内定を出す予定で動いている。コロナ汚染の状況が見えていない現在だからこそ前年同様の日程で確実な採用活動をしていこうというわけだ。

今年の場合、これらのオンライン採用では、コロナ汚染が少しでも沈静化すればリアルな接触での採用活動もあるが、当面はすべてオンラインでの説明会、グループワーク、能力検査、面接という採用活動がネット上で展開されることになるだろう。

 

3.オンライン選考の全面化とミスマッチ回避が課題に

採用活動においてオンラインによる採用広報や能力・適性検査は、数年前から定着していたが、昨年は、コロナ汚染によって会社説明会から面接までがオンラインで行われるようになった。

当初は、企業・学生ともに違和感があったもののコロナ汚染が深刻化するとともに、企業にとっては利便性や安全性が評価されるようになった。これは、学生にとっても、リアルな面接などより遠距離の企業に気軽に応募でき、交通費や諸費用も掛からず、面接では圧迫感も先入観もないということでオンライン面接を歓迎する声が高まった。このオンライン採用の流れは、コロナ汚染が抑制できないまま突入した21採用でも継続、さらに拡大するとみられるので、今後は最終面接までオンラインで行うという企業が増えることになるだろう。

このオンライン採用については、昨年10月に経団連が発表した「新卒採用活動調査」(*2)において明らかなように企業の9割がオンライン面接(同調査では、ウェブ面接と表現している)を実施していたが、次年度も4割の企業が、継続してさらに活用すると回答している。同調査で留意したいのは、オンライン面接のデメリット、不安を指摘している点だ。

例えば、オンラインでは、「企業の採用意欲や熱意等が伝わりにくい」「学生の細やかな表情等が把握しにくい」「人物の雰囲気がつかめない」「対話を深められないため応募者の志望動機の強さや個性が引き出せない」といった観察の難しさや「通信環境によって印象が大きく変わる」「平板なモニター画面だけでは人物の存在感が見えない」というネット技術改善の声だ。これらの問題点は、人物の評価や魅力を引き出すことにおいてオンライン選考が不十分であるということを示し、採用のミスマッチに繋がる原因にもなっているという指摘だ。昨年は、緊急措置ということでオンライン採用をどの企業もとりあえず導入したが、ミスマッチが例年に比べて大幅に増えたという。21採用では、このオンライン採用の問題点、不安を解決していくことが、企業の喫緊の課題となっている。

*2. 「2021年度入社対象 新卒採用活動に関するアンケート結果」2020年9月 日本経済団体連合会

 

4.通年採用は緩やかに拡大

コロナ汚染が発生、拡大した21採用では、従来の採用方法から新しい採用への模索の動きが一部に見え始めた。なかでも注目されたのは、新しい採用方法として経団連が提言した通年採用の動きである。前掲の経団連の調査では、21卒採用において、通年採用を実施した企業は、2割強あると報告しているが、同調査で注目したいのは今後5年程度の方向はどうなのかである。ここでは、「増やしていく」と回答した企業は2割にとどまり、「未定」と回答した企業が7割もあったことだ。一括採用からの脱却ということで経団連が推奨しているものの多くの企業は、慎重だ。通年採用に踏み切れない事情が企業にあるからだ。

例えば、通年採用では、選考スケジュールの余裕ができるため、じっくり人材を見極めることができるものの採用活動が、長期間にわたることから採用広報や選考体制の維持などコストだけでなく採用業務の負担が大きい。それに通年採用の特徴として優秀人材なら大学低学年でも早期に採用できるが、即入社させないと、いつ入社辞退されるかわからないという不安もある。

そのため通年採用を導入するには、採用体制の強化や雇用制度の変更などが求められる。だから現在では、一部の企業を除き、多くの企業では、従来の一括採用と併用する形で通年採用に取り組みながら緩やかに移行していくとみられている。その増え方は、21採用では、全体の1割増加程度だろうが、長期的には、さらに拡大することが予想されるだけに新しい採用として注目するべきだろう。

 

5.ジョブ型採用は、まだ一部にとどまる

この通年採用とともに経団連が提言したジョブ型採用はどうか。これも前掲の経団連の調査によればジョブ型採用を実施している企業は2割強だが、検討中を合わせると約4割と意外に多いが、その実態は、一部の職種(グローバル職やITや金融の高度専門職)に限定されている例が多く、全面的にジョブ採用をしている企業は少ない。そして、ここでも今後についてみると、ジョブ採用を増やしていく企業は1割弱と勢いはなく、「未定」が7割と検討中の企業が多い。

このことから21採用では、大きく伸びるとは思えない。ジョブ採用では、職務記述書の作成、給与など処遇の新設計、チームワークや組織への帰属意識の確認、定着対策など日本的な人事制度の考え方や体系を抜本的に見直すなど課題が山積しているからだ。そのためジョブ型採用は、当面、一括採用との併用型にとどまることになる。すなわちジョブ型採用は、専門性が必要な人材採用に限定され、通年採用と連携することで効果を発揮し、それ以外の総合職や一般人材は、これまで通り一括採用にするほうが効率的ということになる。このようにジョブ型採用には、まだまだ課題が多く、21採用でも急速に広がりそうにない。

 

6.新しい採用と目指すところ

そのほか、新しい採用の動きはあるのだろうか。最近、採用担当者が注目しているのは、リファイラル採用の動きだ。リファイラルとは紹介・推薦などの意味だが、社員の人的ネットワークを通じて人材を採用する手法で事業内容を熟知している社員などが、募集、面談をするので企業の採用担当者は、選考に集中できることから、ミスマッチを避けられるという。その上、採用活動がクローズドなのでコロナ汚染回避、採用コスト削減というメリットや社員に人材採用の重要性を認識させるという狙いもあるので組織の活性化の採用手法としてここ数年、導入する企業が増えている。

また、採用の構造を大きく変えようという新しい採用方法も出てきた。従来のように就職ナビや採用イベントで多くの学生を集めて順次、面接を繰り返し、自社の求める人材を絞り込み、採用するという「応募を待って、説得する採用」でなく、自社が求める人材をネットや各種人材データベース、SNSから探し出し、企業から学生に攻撃的にアプローチするダイレクトリクルーティングである。これは、従来の採用構造とは真逆の「攻める」採用活動である。まさに新しい採用として注目されている。

 

★このように21採用から22採用への動きを見ていくと、コロナ汚染の中で企業の新卒採用は、なんとか一括採用を継続しようとしながらも次の時代を模索していることがわかる。

とくに新しい採用をみると、どれもコロナを回避するということでなく、積極的に人材を採りに行くという点から新しい時代の採用が始まったといえるだろう。もちろん、その目指すところは、一括採用からの脱却、日本的経営の革新にある。それだけに前途は多難だが大きな流れは明確だ。