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労働あ・ら・かると

求人に不思議な成功あり、不思議な失敗なし

社会保険労務士 川越 雄一

 

コロナ禍にあって、失業者が増えているといわれていますが、募集しても集まらず、採用しても早々に辞められる会社は少なくありません。もちろん、何で成功したのか分からないケースもありますが、失敗する会社には何ら不思議はありません。つまり、求人で失敗する会社は失敗するようにやっているのです。また、求人と定着の根っこは同じですから、求人で不思議な成功をしたとしても定着には至りません。これが、日頃から求人の現場を見ていて実感することです。

 

1.幅の大きい賃金額の提示

賃金は雇用関係の根幹をなすものですが、求職者の目を引くような幅の大きな賃金額の提示は、まっとうな人からは警戒されます。ですから良くも悪くも堂々とした定額表示が良いのです。

  • ココが問題

例えば、「基本給 15万円から35万円」というような提示です。もちろん、35万円支給する可能性があるのかもしれませんが、その価値を面接だけで判断できるのでしょうか。そもそも採用に至る人はそこそこの人であるわけですが、そのような人を、この人は20万円、この人は25万円と即座に格付けするのは至難の業です。一方、真面目な求職者から見れば、客寄せのサクラ的な印象を受けます。そうでもない求職者は賃金額につられて応募してきますが、採用後に提示される実際の賃金額を見て「えっ」ということになるのです。

  • 失敗しにくくするには

賃金額は基本的には定額表示が良いと思います。例えば「基本給 20万円から20万円」にしておき、採用後に仕事をさせてみて、20万円以上の価値があると思えば昇給します。また、資格などが物をいう仕事であれば、基本給は定額にしておいて、別途所定の資格手当をつければ良いのです。こうしておけば、会社は採用時の賃金額が決めやすく、求職者も事前に自分が受け取れるであろう賃金額が見込めるので応募しやすくなります。また、このような賃金額提示は真面目な会社であると評価されやすくなります。

 

2.実態とかけ離れた休日・労働時間の提示

賃金と並んで重要なのが休日・労働時間です。賃金と同じように世間相場を意識する必要がありますし、実態とかけ離れていると、採用はできても早々に辞められてしまいます。

  • ココが問題

今は一部の特例事業場を除いて1週40時間、1日8時間が法定労働時間ですから、求人条件も当然この時間以内に収まっていることが必要です。問題となるのは、ハローワークに求人を受け付けてもらうための、実態とかけ離れた休日・労働時間の提示です。今どき「求人票ではこう書いてありますが実は……」は通じにくい話ですし、残業手当を払えば済む話でもありません。また、特例事業場で1週44時間まで認められている場合でも、このような時間・休日設定では、世間相場からして求職者の応募対象からは外されやすくなります。

  • 失敗しにくくするには

難しい話かもしれませんが、法律の範囲内、かつ世間相場を意識してありのままを記載することです。変形労働時間制を適用するのであれば、制度内容を分かりやすくしておきます。また、休日、時間外労働があるのであれば、どの程度あるのかを具体的に記載しておきます。当然この時間は労働基準監督署へ届け出た「36協定」で取り決めた時間内ということになります。今どきの求職者からしてみれば1日2時間、1カ月30時間くらいのものではないでしょうか。残業代を払わないサービス残業は論外です。

 

3.分かりにくい仕事内容の提示

求職者はどのような仕事をするかを見て応募してきます。ですから、採用後にどのような仕事を、どの程度するのか素人でも分るようにしておくことが必要です。

  • ココが問題

ハローワークの求人票「仕事の内容」は、最大360文字書けるのですがスカスカのものが多いです。もちろん、よほど文才があり短文で相手の気持ちをグッとつかめる会社は良いのですが、そうでない場合は、「こんな仕事をしてくれる人がほしい」というアピールが不足します。そうなりますと、真面目な求職者は、どのような仕事なのかイメージできずに応募をためらいます。仮に、採用されたとしても考えていた仕事内容が食い違い「こんなはずじゃなかった」と早々に辞められてしまいます。

  • 失敗しにくくするには

求職者は未経験者であることを前提に、仕事の内容は中学生でも分かるように書くことがポイントです。実際に仕事を頼むことをイメージすると書きやすくなります。また、どの程度の業務量を、どれくらいの人数でこなすのか具体的な数字を入れると、求職者は仕事の内容をイメージしやすくなります。教育体制やスキルアップの目安(3カ月後、1年後、3年後など)も具体的に記載しておくと求職者は安心します。せっかく360文字書けるのですから、できれば目一杯使って会社の一所懸命さを伝えます。

 

求人においてたまたま成功することはありますが、たまたま失敗することはありません。賃金額、休日・労働時間、そして仕事内容の提示をキチンとしておけば、成功はともかく失敗はないのです。