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労働あ・ら・かると

オンライン採用2年目を迎えて

就職・採用アナリスト 斎藤 幸江

就職・採用アナリスト 斎藤幸江が、就職アナリスト 夏目孝吉氏の後を引き継ぎ、今回から連載を担当することになった。似た肩書だが(知らない間に肩書を“寄せられて”驚いた!)が、前任とは守備範囲も視点も異なる。学生支援の現場や海外比較等の観点から、新卒採用・就職について解説する。

 

〈オンライン採用元年からの変化〉

  • 一年前(21卒)は採用も大学も機能停止

22卒の就職活動がピークに向かっているが、「昨年に比べると、学生のオンライン対応に余裕が出てきた。昨年は不安でしかたないという学生も多かったが、今年は、こなしている感がある」(採用担当者)という。

一年前に緊急事態宣言が発令され、予定された学事日程がストップした。採用選考も、インターンシップからの早期選考等を除き、中断した。

学生目線でみれば、3月下旬から1〜2ヶ月の間は、就活も進まなければ、大学もほとんど機能していなかった。授業はもちろん、相談やガイダンスなども提供を停止していた。

本来ならば、選考で忙しいはずの年度始めなのに、志望企業は、採用するのか、減らすのかもわからず、選考の方法も不明で、不安ばかりが募る。それなのに、相談先がない。そんな状況で余裕をなくす学生が多かったのも、当然だ。

 

  • オンライン採用2.0(?)への期待

それに比べれば、22卒は、学生側も採用側もゆとりがある。しかし、それは裏を返せば、採用側への期待度が上がることを意味する。

昨年度は、なし崩しにオンライン化が進んだので、付け焼き刃な対応でも「お互い様」と許容された。そかし、今年は、そうはいかない。

職場に足を運んでもらえない分、雰囲気をどう伝えるのか。授業でオンライン視聴に飽き始めている学生に、興味を惹いてもらうには何ができるのか。その工夫が、母集団形成や入社意思の向上に大きく影響するのが、2年目だ。

昨年は、タブロイドを片手に社内を走り回り、各部署の社員にライブインタビューをした企業が、学生を魅了した。また、オンラインインターンシップでも、参加者への配慮や社員のファシリテーションの質が、学生の印象を左右している。

使えるツールの吟味、特性の把握など、「しかたなくオンライン」でなく、「だからオンライン」への移行が今年の採用活動の鍵になる。

 

〈学生の通信環境への配慮を〉

  • 学生のネット環境は、さまざま

日常、キャリア教育科目の授業や相談、模擬面接、グループワークなどをオンラインで担当している。当初よりは、“事故”は減ったが、今なお、面接中に画像が消える、グループディスカッション中に落ちてしまうなどのトラブルは毎週、起こる。

送信者の環境が万全だと、受信者側も大丈夫なはずと捉えがちだが、誰もがスイスイとビデオも音声も送受信できると考えないほうがいい。

最近は、「反応を確認しながら話したい」、「マークなどを使って、双方向の雰囲気を作りたい」などの理由で、「説明会中は、マイクもカメラもオンにしてください!」と呼びかける企業が増えている。

しかし、

「リモートワークの両親に、同じく大学生の弟の家族4人で暮らしている。全員が、同時にアクセスすると、誰かが犠牲になる」

「PCの機種が古いせいか、動画視聴アプリによっては相性が合わず、落ちる」

「無制限アクセスの環境を整えたいが、バイトもなくなり、増額できない」

「学生アパートでアクセスが集中すると、カメラが固まる」

など、「カメラオンは、勘弁してほしい」というさまざまな声が聞こえている。

 

  • 通信困難な学生は諦めムード

「本当に、回線が落ちてしまうことが多いので、要顔出しの説明会には、参加しません」――。

せっかくの志望企業をそんな理由で断念する学生もいる。どうしても働きたい会社なら、カメラオフでも出席すれば? と思うが、「画像のない学生の名前をチェックされると思うので」という。事前に説明するのも「十分な環境を整えられないのは、マイナス評価ですよね?」と諦めモードだ。

通信に制限がある学生の場合、別の通信場所を確保できなければ、面接回数をコントロールするほかないという声も聞かれる。

説明会やセミナーなどの場合、ビデオありの通信量は、ビデオなしの8〜9倍と開きは大きい。事前に参加者の通信環境をある程度把握しておく、環境が整わない学生に対して配慮するなど、ぜひ気配りをお願いしたい。

また、面接でアプリを指定する際、必要条件を予め学生に伝えてほしい。今の環境でできるのか、他の場所を使うならどこなら大丈夫かを確認できれば、トラブルは減らせる。

採用停止、大幅減のニュースも聞かれ、不安な学生に対して、採用側のみなさんには、ぜひ、懐深く向き合ってほしい。

 

★参考

「Zoom会議の際にかかる通信量はどれくらい? ビデオと通話のみの差とは」2020.8.27

NECネッツエスアイ

Zoom会議の際にかかる通信量はどれくらい?ビデオと通話のみの差とは

★執筆者プロフィール

斎藤 幸江

就職・採用アナリスト。就職情報会社勤務後に独立。「就職と採用を元気にする」をモットーに、学生及び採用教育担当者向け講師、執筆に携わる。キャリア教育では、某大学で「学生が選ぶベストティーチャー賞(大規模授業)」2019・2020年度、連続受賞と対面及びオンライン共に授業は好評。近著に『キャリアデザインの教科書』(労働調査会 共著)。国家資格キャリアコンサルタント。