労働あ・ら・かると
テレビショッピング風の労働条件から脱却しよう
社会保険労務士 川越 雄一
見るともなしに見てしまうテレビショッピングですが、消費者の購買意欲をそそるフレーズがいくつもあります。その一つが「通常価格〇〇円ですが、……」の言い回しです。これでもかとお得感を前面に出す演出で思わず電話をしてしまいます。しかし、これが労働条件だと話は別です。「就業規則にはこう書いてありますが、……」ということで、規定と実態がかけ離れていると不信感を招きますし就労意欲を減退させてしまいます。それを防ぐには……。
1.「〇〇ですが、……」に思わず
テレビショッピングで「通常価格〇〇ですが、……」とくれば、当初提示した価格の半値くらいになりますし、こちらも当然それを期待します。
- これでもかのお得感演出フレーズ
テレビショッピングでは価格訴求も仕方ないところですが、最近はだんだんとエスカレートしているのではないでしょうか。いわゆるお得感を演出するわけですが、これでもかの連発です。もちろん、そのようなお得感演出は購入者側も薄々承知しているわけですから暗黙のルールなのかもしれません。
- 「〇〇ですが、……」は織り込み済み
最近は「通常価格〇〇ですが、……」というフレーズも慣れたというか、あって当然となった感があります。つまり購入者側も「……」部分は織り込み済みです。ですから、「……」部分がさらにもう一つ付いてきたりします。逆に、「……」がないと「何で」ということにもなりかねません。
- あってないような定価(基準)
「半値八掛け五割引」ではありませんが、テレビショッピングの価格設定はどうなっているのかと思います。あってもないような定価(基準)設定に不信感を覚えます。労働条件においても定着率が悪かったり、労務トラブルの多い会社では「就業規則にはこう書いてありますが、……」ということが少なくありません。
2.得られにくい暗黙の了解
テレビショッピングの「……」は当初提示した条件より良くなりますし、演出の一つであることを購入者側も了解しているのですが労働条件の場合は注意が必要です。
- 「〇〇ですが、……」でマイナス展開は不信感を倍増
「就業規則では就業時刻は18時ですが、実際は20時くらいです」「基本給は20万円ですが、残業を20時間した場合です」などと労働条件がマイナス展開するというのは不信感を倍増させます。
相手の持つ期待感を裏切るわけですから不信感が増すわけです。「そんなの常識でしょ」が通じると思ったら大間違いです。
- 離職しても定着しても厄介なもの
終業時刻18時は18時であり、それを超えての勤務は例外としての残業なのです。賃金も同じで基本給に残業を含むというのには無理があります。このような労働条件ではまっとうな人は早々に離職し、そうでもない人は不満はあっても、よそに行き場がないので仕方なく定着します。いずれにしても厄介なものです。
- 基準が曖昧だと落ち着かない
もちろん、「〇〇ですが、……」の「……」部分がプラスに展開すれば問題ありません。しかし、たとえ提示した労働条件がプラスに展開するにしても基準自体が曖昧になり、さらにプラスの「……」部分があるのではないかと期待されてしまいます。期待の裏返しは不満ですから、良かれと思ったことが不満を生むことにもなるのです。
3.労働条件は堂々と提示して堂々と履行する
労働権条件は良し悪しにかかわらず、堂々と提示して堂々と履行することが重要であり、これが労使関係安定の要諦です。
- 「〇〇ですが、……」無しの労働条件を提示する
労働条件にホンネもタテマエもなく、解釈の余地も残すべきではありません。誰がどう見ても同じ対応ができることが必要です。労働時間・休日・賃金などどれも雇用関係の根幹をなすものですから、「〇〇ですが、……」は無しで提示します。堂々とした労働条件提示は安心感を生みます。
- ルールである就業規則に基づき対応する
労働条件は就業規則の規定を基に作成・提示します。ですから雇用関係中のことはルールである就業規則の規定に基づき対応することが必要です。就業規則は従業員が守るものですが、同時に雇う側である経営者も守るべきものです。だからこそお互いにほど良い緊張感が生まれて雇用関係が安定するのです。
- 中途半端な期待を持たせない
労働条件の提示においては、相手に中途半端な期待を持たせないことです。テレビショッピングでは「〇〇ですが、……」に期待感を持たせて購買を誘引するわけです。しかし、労務においては、このようなフレーズにより後出しでマイナスの条件を出すのは、会社に不信感を持たれるだけですから厳に慎むべきです。もちろん提示したことはキチンと履行します。
コロナ禍にあって外出が制限されることもあり、テレビショッピングは好調なのかもしれません。そして、「〇〇ですが、……」に思わず電話してしまうのですが、労働条件においては、このテレビショッピング風のフレーズは要注意です。つまり、労働条件提示は後出しではなく当初に堂々と提示するのが要諦です。