労働あ・ら・かると
「誰が」ではなく「何を」型の労務にシフトしよう
社会保険労務士 川越 雄一
小さな会社の労務は、ルールらしきものはあったとしても、それに基づき「何を」言ったか・したかというより、「誰が」言ったか・したかで大体のことは決まってしまうのではないでしょうか。しかし、今どきは若手従業員を中心に、それでは納得しない人が増えているようです。ですから、それを納得させるためには、労務について極力ルール化し、「誰が」ではなく「何を」で決まる労務へのシフトが必要なのかもしれません。
1.労務は「何を」ではなく「誰が」で決まりやすい
良く言えば「臨機応変」なのでしょうが、特に小さな会社ではトップのひと声や担当者独自の解釈により、その都度対応が変わりやすいものです。
- 「何を」というより「誰が」に影響されやすい
小さな会社にも就業規則はあります。しかし、どちらかといえば「あるだけ」という会社も少なくないのではないでしょうか。就業規則に沿って「何を」言ったか・したかというより「誰が」言ったかで大体のことが決まったりします。もちろん、その「誰が」も悪いことばかりでもないのですが……。
- 「臨機応変」と「場当たり的」は紙一重
ルールに沿った「何を」ではなく「誰が」で対応していると、トップや担当者の気分で今日は良かったことが明日はダメだったりします。もちろん、その時々の状況に応じて最適な選択をする「臨機応変」の対応は必要です。しかし、それは見方を変えれば「場当たり的」な対応ともいえます。つまり紙一重なのです。
- それでも今までは何とかなっていたが
トップが創業者である場合は、「何を」ではなく「誰が」がより強くなります。創業時から何かと苦労していますので、発する言葉の一つひとつに情熱があるので迫力があります。ですから「オレがルールブックだ、オレについて来い」で今までは何とかなっていましたし、ある段階まではそういうリーダーシップも必要です。
2.社内に不信感を生む「誰が」型の労務
コロナ禍を機に従業員の会社に対する用心深さが強くなり、今までは何とかなっていた「誰が」型の労務では社内に不信感を生むようになってきました。
- コロナ禍で用心深さが強くなり
コロナ禍となって、会社に対する従業員の用心深さが強くなりました。具体的にいうと個人情報の取扱い、労働時間の取扱いなど、今までは少々アバウトでも堂々と異議を唱える人はいませんでしたが、今は細かなことにもすぐに不信感を持たれます。そしてその不信感は不満となって会社に跳ね返るようになりました。
- 「誰が」では納得しない
もちろん労使関係だけではなく、今は社会全体に「ゆとり」というか「あそび」が少なくなった気がします。ですから「誰が」言ったか・したかでその都度対応が変わる労務に納得しないのです。感覚だけで物を言おうものなら、それこそ口をへの字に曲げて「どこにそんなことが書いてあるのですか?」と根拠を求めたがる人が多くなりました。
- ルールに沿うことが信頼関係の第一歩
よほどカリスマ性のある人であれば、ルールなどなくても従業員を惹き付けることができるのでしょうが普通の人は無理です。ちまたには、信頼関係づくりの極意と銘打ったものが溢れています。しかし、基本となるのはルールに沿って対応することであり、「何を」を判断基準とすることが信頼関係の第一歩です。
3.「何を」型の労務3つの手順
「何を」を判断基準とする労務を行うには、まず誰が見ても分かるルールをつくり、それを従業員に周知し判断基準を共有化します。そして、そのルールに沿って対応することが肝要です。
- 誰が見ても分かるルールをつくる
ルールは誰が見ても分かりやすいのが大切です。分かりやすいというのには2つあります。一つは言葉や言い回しが分かりやすいことです。理想は中学生でも分かるレベルが良いです。もう一つは手順が詳しく決められていることです。詳しく決めることにより解釈の幅が狭くなり例外が少なくなります。この2つを意識すれば安心感のあるルールになります。
- ルールを周知する
「何を」型の労務ではこれが最も重要かもしれません。ルールの対象となる従業員がルール自体を知らなければ話にならないからですが、現実にはこれが多いと思います。たとえていうなら交通ルールを知らされずに車を運転するようなものです。ですから、誰でも分かるルールをつくったら、対象となる従業員にキチンと説明して理解させておきます。
- ルールに沿って対応する
前記2つの手順をキチンと踏めば、当然ルールに沿って対応することになります。もちろん、ルールにガチガチというのは問題かもしれませんが、それくらいであっても実際にはちょうど良いくらいの運用となるはずです。当然ながらルールに拘束されるのは従業員ばかりではなく会社も同じです。だからこそ信頼関係が生まれるのです。
労務というのはどうしても「誰が」になりやすいものです。もちろん、それが全面的に悪いわけではありませんが、今のような先行き不透明な時代は、意識して「何を」型の労務にシフトすることも必要なのかもしれません。