労働あ・ら・かると
昭和のワルに学ぶ労務管理3つの心得
社会保険労務士 川越雄一
以前、高校を1年ほどで卒業した同級生と一杯やったときの話です。彼は在校中も学校にはあまり来ませんでしたが、校外ではそれなりに幅を利かせていたようです。いわゆる昭和のワルなのですが、その流儀というか考え方は令和時代の労務管理にも相通ずるものがあります。要所に情報網を張り巡らし、ケンカをせずに勝つ、どうしようもないことは覚悟をしておく、の3つです。
1.要所に情報網を張り巡らす
何事にも情報の収集・把握は重要です。相手の状況が分かるからこそ的確な判断・行動ができます。
●中学・高校の勢力図を把握していた
彼は一見大雑把(おおざっぱ)に見えるものの、要所に情報網を張り巡らせ、地域にある中学校・高校に誰が居て、どの程度の取り巻きがいるのかを常に把握していたそうです。中にはガセネタもあったのでしょうが、それを本能的に分析し、地域の勢力図を把握していたのです。
- 状況に応じて的確な対応をする
彼に学ぶべきは、状況に応じて的確な対応をするということです。彼もやみくもに悪さをしていたわけではなく、その時々の状況に応じて身の置き方を考えていたようです。会社も関係する法律や制度に応じて的確な対応をすることが重要です。法律や制度は目まぐるしく変わりますから、常に情報網を張り巡らせておくことが必要です。
- 法律や制度を知る
彼の教訓を労務に置き換えてみると、法律や制度を知ることでしょうか。ひと口に法律や制度とはいっても、その数は半端ではありません。しかし、法律や制度は社会のルールであり、人を雇用するからには知っておく必要があります。昔なら労働基準法だけで良かったのでしょうが、今は育児休業、セクハラ・パワハラ、同一労働同一賃金関連など実にさまざまなものがあります。
2.ケンカをせずに勝つ
ケンカはお互いにとっての消耗戦ですから、できればその前に片をつけたほうが良いです。つまり戦わずして勝つということです。
- 相手に勝ち目はないと思わせる
彼は百戦錬磨(ひゃくせんれんま)の猛者(もさ)だと思っていましたが、意外に実際のケンカはあまりしなかったようです。勝ち続けるのは難しいからだそうです。そのために、自分のバックにケンカ相手より強い人の姿をちらつかせたといいます。ケンカ相手はそれを見て勝ち目はないと退くのだそうです。
- 従業員に勝ち目はないと思わせる
彼に学ぶべきは、従業員に労使紛争を起こそうという気を起こさせないことです。労使紛争を起こそうとするのは勝ち目があるからであり、会社がキチンとして隙がなければそのような気にはならないはずです。特に労働時間(残業代)は争いのネタにされやすいので、意識して貸し借りなしにしておきます。
- 労使紛争もケンカしないのが一番
彼の教訓を労務に置き換えてみると、労使紛争で会社が勝つことはまずありませんから、まさにケンカせずに勝つというより、うまく負けることでしょうか。ケンカ同様、仮に勝ったとしても消耗戦ですから実質負けたのと同じです。ですから、日頃より会社の脇を固めて、会社とケンカしても無駄と思わせることです。
3.どうしようもないことは覚悟をしておく
法律は100%守るように努力すべきでしょうが、どうしても守れないものについては覚悟をしておくことです。
- 潔(いさぎよ)く
彼は中学から高校にかけて、かなりの“やんちゃ”だったわけですが、同じ学校の同級生には手を出しませんでした。というより、活躍の場はもっぱら校外だったようで、悪事に同級生を巻き込んではいけないという彼なりの流儀があったようです。ですから謹慎、退学の処分時も潔く、いつの間にか学校を去っていました。
●ジタバタしない
彼に学ぶべきは、自分自身が悪いことをやっている自覚と、どこまでなら大丈夫かという感覚と覚悟を持つことです。覚悟があれば、悪さの度が過ぎてお咎(とが)めを受ける場合もジタバタしなくて済みます。逆にジタバタするくらいなら中途半端な悪さはしないことです。彼は、悪さが度を過ぎたことを感じ取ったのでしょうか、2年生の新学期を待たずに卒業していきました。
- 法律を100%守るのは難しい
彼の教訓を労務に置き換えてみると、労務関係の法律を100%守ることは難しいのですが、守ろうとする姿勢は必要です。もし、どうしても守れない場合は、そのリスクの程度を理解したうえで覚悟します。また、仮に労務トラブルが起きた場合は、極力早期にケリをつけます。勝っても負けても長引けば長引くほど会社のダメージは大きくなるからです。
好き勝手に“やんちゃ”していたように見えた昭和のワルも、情報収集、ケンカはしない、どうしようもないことは覚悟をするなど、それなりの流儀があったようです。そして、その流儀は令和時代の労務管理にも十分活かせます。
ところで、その同級生も今では会社経営者です。ちょいワルおやじの雰囲気を漂わせながら……。