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「ことわざ」に学ぶ採用時に外せない5つの急所

社会保険労務士 川越雄一

 

ことわざ(諺)というのは、古くから言い伝えられてきた教訓や風刺、知識などを含む簡潔な言葉のことをいいます。細かな説明の代わりに、気の利いた言い回しで生活に役立つ様々な知恵を教えるために使われます。最近は難しくなったといわれる人の採用についても、「ことわざ」から本質や対策を学ぶことができます。そこで今回は、人の採用時に外せない5つの急所を「ことわざ」から学んでみます。時代は変わっても、人の営み・本質は昔とさほど変わっていないのかもしれません。

 

 

  • その1 「話し三分に聞き七分」

「話し三分に聞き七分」というのは、コミュニケーションにおいて、話すことより、むしろ相手の話を聞くことのほうが大事だということです。

採用面接においては、面接での主役は応募者であり、こちらは、あくまで聞き役に徹するべきです。そうすることで、応募者の本音を聞き出しやすくなります。

・採用面接では応募者の「普段」を見ることが重要ですから、まずはリラックスさせます。

・質問は単に「はい」「いいえ」で終わる質問は避け、「なぜそう思うのか」というように質問を掘り下げて、応募者にできるだけ多くしゃべらせるようにします。

・場合によっては応募者アンケートを出してもらいます。応募者アンケートというのは予備面接のようなものです。ちょうど、病院で診察前に問診票を書かされますが、あれと同じです。応募者の話をできるだけ聞くという点では有効です。

 

  • その2 「逃した魚は大きい」

「逃した魚は大きい」というのは、釣り上げたのに落として逃してしまった魚は、実際よりも大きく(素晴らしく)見えるという意味です。

採用面接後の対応として、「そんなことまでするの」と思われるかもしれませんが、採用を辞退され、悔しい思いをしないために、今はそんなことまでしないといけない時代です。会社との信頼関係はゼロを前提に対応します。

・面接お礼ハガキを差し出します。数ある会社の中から、自社を選んで面接に来てくれたわけですから礼を尽くします。一枚のハガキに、面接をしたトップ自ら真心を込めて筆を取れば必ず思いは伝わります。

・面接終了後の帰り際にちょっとした手土産を渡します。「本日はお疲れ様でした」の挨拶と同時に、「ほんのお口汚しですが…」などと言いながら、さりげなく全員に渡します。

 

  • その3 「書いた物が物を言う」

「書いた物が物を言う」というのは、あてにならない口約束と違い、紙に書いたものは、あとまで残って動かぬ証拠になるということです。

採用時の雇用契約において、人の気持ちや記憶は、その時々の状況により変わりますから、会社と従業員の約束事は各段階で手順を踏み文書に、つまり雇用契約書にしておきます。

・求人票の内容は会社から求職者へ提示する労働条件ですから、雇用契約書作成の起点になります。

・面接では、求人票の労働条件をもとに、採用の可否を判断していきます。基本的にはこの段階で雇用契約の内容である労働条件は確定させます。

・面接段階で確定できなかったとしても、内定時の打ち合わせ段階までには必ず労働条件を確定させます。

・採用日当日、仕事をさせる前に雇用契約書を取り交わします。雇用関係というのは、さかのぼって無かったことにはできないので、採用時点での約束事を確定させるのです。

 

  • その4 「ただより高いものはない」

「ただより高いものはない」というのは、ただで物をもらうと、お礼に金がかかったり、恩に着せられたりして、無理な頼みごとをされたり、かえって高い代償を払うことになってしまうということです。

採用においては、余計なお金(助成金)には手を出さないということです。助成金制度自体が悪いわけではありませんが、採用は助成金抜きで判断します。

・なぜ助成金(税金)がもらえるのかを理解します。本来納めるべき税金を使って助成金が支給されます。なぜ、国がこのようなことをするのか理解することが必要です。

・返さなくても良いお金はありがたいのですが、人を採用する場合にハローワークの紹介が必要だったりするなど、制約も多くなります。

・助成金目当てに採用される会社はないと思いますが、「助成金ご案内」のチラシが入っていたりすると、つい採用判断が鈍ったりします。

 

  • その5 「急がば回れ」

「急がば回れ」とは、急いで物事をなしとげようとするときは、危険を含む近道を行くよりも、安全確実な遠回りを行くほうがかえって得策だということです。

新入社員の育成において、採用は投資のようなものですから、「急がば回れ」の如く、じっくりと育てることが必要です。時代は変わろうと、やはり育成には一定の時間がかかるのです。

・適性を見極めます。ポイントは基本動作ができるかどうかです。基本動作というのは、事務系でいえば誤字脱字や計算結果の自己チェック、報告・連絡・相談の励行などです。

・3年間はじっくりと育てます。基本動作ができるのであれば、あとは時間が肥やしです。最初は「点」だったものが前後でつながり「線」となり、そして横に広がり「面」となるのです。

・信頼される前に信頼します。新入社員も会社のほうから「信頼していますよ」と言われれば、その信頼を裏切るようなことはしないものです。