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ガクチカ難民の経験を掘り起こす

就職・採用アナリスト 斎藤 幸江先生

 

・ガクチカネタが見つからない……

数ヶ月前に、早稲田大学が国際文学館(村上春樹ミュージアム)を開設とのニュースが流れ、カフェを運営する学生スタッフが取材されていた。偶然なのか、いずれも「ここに応募するまで、村上氏の著作は一冊も読んだことはありませんでした」と語る3年生。

さては、ガクチカ難民が、ここに流れたのか!?といささか、冷めた気分になった。しかし、そんな彼らは、機会をつかめただけいいのかもしれない。

成人にもなるし、大学生活にも慣れたし、さぁ、思いっきり充実した日々を送ろう!と考えていた矢先に、コロナに見舞われた23卒予定者。応募書類や面接でアピールする経験がないと嘆く学生は多い。

 

・穴を埋めるのもガクチカ

学生生活で力を入れたこと、いわゆるガクチカをなぜ、採用選考で聞くのか––。整理すると、目標をどう設定し、それにどう取り組んだのかから見える志向や行動特性、あるいは、予想外の事態にどう向き合ったのかを通じて課題解決力やストレス耐性などの把握が目的だ。

こうした特性がつかめれば十分であり、経験のキラキラ度を評価しているわけではない。しかし、それが学生にしっかり伝わっていないために、「コロナだったんで、ガクチカとか、無理なんですけど」と落ち込んでしまうのだ。

学生に、こんな話をした。

「ガクチカっていうと、地面にどんどん土を盛って、高くて素敵なモノを作り上げました! と誇らしいエピソードをしなくては、と思っている人がほとんどだよね? でも、そんな必要はない。

穴を埋めるのもガクチカだよ。コロナで本当はこのまま進めるはずだった道に、ストンって大きな穴が空いて、マイナスを埋めなきゃ!ってなった人も多いよね?

どんな穴が空いて、どうやって地面レベルまで戻したか、あるいは代わりの道を探したか。土を盛れないなら、そういう話をしよう。

留学を目的に大学や学部を選んで進学したのに、今年は行けるかな? 来年ならコロナは収まるかな?って、ヤキモキしながら待たされた挙句、諦めるしかない。そんな学生にも何人も会った。

失望は大きいよね。心にも計画にも大きな穴が空いたわけだけれど、みんな、そこから立ち直ったり、留学に代る勉強法や海外とのつながりを見つけたりしている。それも立派なガクチカなんだよ」

すると、「穴埋めでもいいんですね。それなら、あります! 留学の穴埋めもそうですが、バイト先はなくなるわ、オンライン授業のモチベーション維持は大変だわ、病弱の同居家族がいて家事負担は増えるわで、穴は、ボコボコ空きましたから!」と元気な声が次々と返ってきた。

 

・穴ネタを引き出そう

マイナスになった日常を埋めた話でいいのだと気づければいいが、視点を変えられる学生は少ない。

だから、採用側から積極的に引き出してほしい。

「コロナの影響で変更を余儀なくされた計画や予定はありますか?」、「日常生活で負荷がかかったり、困難を感じたりしたことはありますか?」と状況を引き出し、「その時、どう感じましたか? そしてそれにどう対処しましたか? 具体的な取り組みや新たな目標・目的がわかるように説明してください」と深掘りしていけば、人物像の把握に十分な情報を入手できる。

穴ネタには、「コロナで損ばかりだと思っていたが、価値ある経験もしていたんだ」と、学生の自己肯定につながるメリットもある。

さらに––。ここだけの話(!?)だが、ネガティブネタは、飽きない、疲れないのである。

多くの応募書類や面接選考に長時間×長期間向き合っているうちに、「あぁ、聞き飽きたなぁ」、「なんだか同じ話ばかりで頭がぼぅっとしてきた」という経験はないだろうか?

今より高みを目指す「ガクチカ」は、浴び続けていると疲弊する(と私はにらんでいる)。また、こちらは文系なのに理系の研究について聞かされる、自分はスポーツをしないのに、部活の優勝経験を語られるなど、専門や興味が異なると、相槌も打ちにくく、なかなか距離が縮まらない。

しかし、マイナスを埋める話は、さほど疲れない。さらに、「そりゃ、大変だな」と自分の興味から外れる内容でも共感しやすく、相槌が自然に出る。こうした態度は、表情が伝わりにくく時間も対面より長いオンライン面接に、特に有効だ。

どんな状況をどのくらいの穴ととらえたのか、という説明から、ストレスのタイプや耐性なども把握しやすい。

 

応募者のガクチカがしょぼくて判断できないとお悩みの方は、「穴埋め経験」を引き出して、採用に活かしてほしい。