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“せこい”と思われやすい賃金の支払い方を今すぐ正そう

社会保険労務士 川越雄一

 

多くの会社では、人材の採用に苦労されているのではないでしょうか。仮に採用できたとしても、すぐに辞められてしまうことも少なくありません。その原因の一つは、賃金の支払い方が“せこい”ことが考えられます。賃金額というより支払い方です。賃金は雇用関係の根幹をなすものですから、ここが“せこい”と全てが“せこい”と受け取られ、早々に辞められてしまうのです。

 

 

1.基本給を異常に低く設定している

 

異常に低い基本給設定は、その目的が見え見えで“せこい”会社を印象付ける代表格です。

  • 基本給と手当が逆転

中小企業の中には、基本給が80,000円、諸々の手当が120,000円、合計200,000円という賃金明細が存在します。「えっ!」間違いではないかと思いますが、現実にこうなっている会社もあります。もちろん、求人票にはこんな内訳で掲載したら応募がないでしょうから採用後に提示されるのだと思います。もしくは、初任給の賃金明細を見てびっくりということもあるでしょう。

  • ココが“せこい”

基本給を異常に低く設定する目的は、賞与と退職金を低く抑えたいということが考えられます。会社の規定が「賞与=基本給×〇倍」、「退職金=基本給×〇カ月」となっている場合です。

賞与5カ月分といっても基本給額によって支給額は大きく違います。もちろん、このようなカラクリを理解できない従業員は別ですが、多くの従業員からは目的が見え見えで何とも“せこい”会社だと受け取られやすいのです。

  • 基本給は勤め人の顔

基本給はそれなりの金額に設定すべきです。例えば、基本給180,000円、諸々の手当が20,000円、合計200,000円というのが妥当なところではないでしょうか。もし、賞与や退職金を高くできないのであれば、支給倍率を下げるか、そもそも基本給と連動する仕組みを改めれば良いことです。もちろん、ルールを変更する場合は従業員への説明と納得してもらうことが必要です。

 

 

2.休日出勤を代休ありきで処理する

 

例外としての代休が原則のように位置付けられていますと、会社が手当を出したくないと思われ、“せこい”会社だと受け取られやすいものです。

 

  • 休日出勤の代わりに休ませる

業務の都合で休日出勤はあり得ますし、「36協定」を締結・届け出しておけば合法的に行わせることができます。そして、要件を満たせば、休日出勤手当に代え、休日出勤させた日とは別の日に休みを与えることもできます。しかし、忙しいから休日出勤している場合は、当然他の平日も忙しいわけですから、代わりに休む日を設定することが難しく、未処理の代休が増えていきます。

  • ココが“せこい”

そもそも休日出勤の場合は、それに見合う手当を払うことが原則です。代休というのは休日出勤をさせた代償として与える休暇であり、本来は償いのためにあるとされています。つまり休日出勤手当にプラスして与えるものです。もちろん、就業規則で代休日の賃金は支給しないと決めれば無給でも構いませんが、常に代休ありきで休日出勤させていると“せこい”会社だと受け取られやすいのです。

  • 出勤させたら支払う

休日出勤させたら休日出勤手当を支払うことを原則とします。1週1日の法定休日が35%増し、それ以外の休日は25%ですから、それだけの手当を支払ってでも休日出勤させる価値があるかどうかを見極めます。代休というと軽く感じますが、月をまたげば賃金未払いということになるわけですし、仮に代休を与えていたとしても、週が違えば35%なり25%の割り増し部分の支払いは必要です。

 

 

3.遵法と脱法を都合よく使い分ける

 

遵法といえば聞こえが良いのですが、すべてに終始一貫して

いないと都合よく使い分けているようで“せこい”会社 と受け取られやすいものです。

  • やたらと細かな賃金計算

法律には、休日出勤手当など割り増し賃金の計算方法が細かく決められており、これに従って計算すれば法律違反にはなりません。しかし、法律は最低基準なので法律どおりにやろうすればするほど複雑な計算となり従業員には理解しにくいものになってしまいます。

  • ココが“せこい”

都合の良いことだけことさら遵法風を吹かせ、そうでないことは脱法まがいの対応をすることは問題です。例えば、合法的だからと法律の枠ギリギリで割り増し賃金の時間単価を計算しておきながら、タイムカードに打刻された端数の時間を適当にカットして時間外の時間を計算するような場合です。会社の都合の良いように遵法と脱法を使い分けているところが“せこい”と受け取られやすいのです。

  • 少々のことは割り切る

法律どおりに計算すること自体は良いことです。しかし、定着の悪い会社は従業員からの信頼が低いわけですから、少々のことは割り切り、少々のことは従業員に有利な計算をするのも一つの手です。仮にこのような計算をしたところで、支払う賃金に大した差は出ません。いわゆる「損して得取れ」の割り切りも必要なのです。

 

 

「“せこい”とは失礼なことを」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、どう受け取るかは従業員であり、その結果として定着の良し悪しが決まるのです。