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ネット通販で買うかお店にでかけて買うか~コロナで変わった購買行動と 変わらない助言の価値~

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

 

 書籍を購入したりワイシャツを買ったりする購買行動が、もう2年を過ぎる新型コロナウィルス感染症拡大対策のための「密集規制策」によって大きく変わった(変えられてしまった)読者の方々も多いことでしょう。

 筆者も「この本を読みたい!」と思うと、昭和平成の時代なら駅前書店に立ち寄って(またこの店主が「仕入れに行ってこの本を見たらお客さんの顔が浮かんだので入れときましたよ。」という不思議な駅前書店の主だったこともあって)棚をながめ、見当たらなければ取り寄せを頼んで一週間くらい待って入手したものでしたが、今やネット通販で注文すると早ければ翌日届く時代になりました。それが良いのか悪いのか思案するところではありますが、恐らく書店で本を手に取っての書籍購入は以前の十分の一以下になっていて、これはポストコロナの時代が到来しても元には戻らないだろうと思います。
 くだんの駅前書店も何年か前に店を閉める結果になったのも、とても寂しいですが止むを得ないことでしょう。
ネット通販サイトは、購入者の履歴を把握しているらしく、AI君なのでしょうか、新刊書などを推薦してくるのですが、とてもまだ愛用していた昭和の駅前店主の域には達しておらず、むしろ「トンチンカンもいい加減にせい!」と腹立たしくなるプッシュ通知が多くて、うるさいと思ってしまいます。
 採用選考の際に愛読書を聞くことは、差別につながるおそれのある事項として禁忌とされていることを思い出し、書籍購入履歴の記録は、購入者の思想性も場合によっては把握できてしまうのではないかと想い、いかがなものかと思うこともあります。

 一方で、色やサイズをえり好みしたい筆者にとっては、ワイシャツの購入はどうしても実店舗に出かけて行って、店員さんと会話をしながら、この生地の通気性はどうなのか、色合いは蛍光灯やLED下ではどう見え、太陽光下ではどう見えるのか確認しながら買いたいのです。そしてそのショッピングそのものを楽しみながら好みの商品を得ることができるプロセスは、ストレス解消であり何より楽しい時間ですから、ネット通販での商品到着を待つワクワク感とはとても比べ物になりません。
 店員さんに語りかける言葉で多いのは「あなただったらどちらを選びますか?」「あなただったらどちらをプレゼントしますか?」という類です。
 テレワークが浸透し、一部の企業・職種とはいえ定着しそうなのですので、こういった販売員の方々との会話も、スマートフォン経由でできるバーチャル店舗が登場しており、「出かけない購買」も選択肢としてはある時代になったのですが、昭和世代の筆者としてはどうしても平面画像での会話はリアリティに欠け、満足感が中途半端に終わってしまいそうです。
 そして何より、現在の技術では「色の再現」が端末によって大きく異なってしまうこともありますので、やはり「実店舗にでかけてのショッピング」は、まだまだ無用にはならないでしょう。

 ここまで書いて、ふと思い当たるのは先月末に成立した職業安定法改正についての論議です。
 ネットによる「募集情報等提供事業」を利用すると、得られる求人の量は膨大で、もちろん閲覧の際に自分なりに条件設定をして絞り込むことができるシステムになっているのでしょうが、人材の方全員が上手に条件設定できるとは限りません。転職・再就職という場の傍らに立ち続けてきた筆者の経験からも、多くの方々がご自分の適職は何かと自問自答しながら職業人生を送っていらっしゃいますし、ご自分について、何ができる、何が得意、何が好き、何に向いているということまで、会話の中で引き出せても、ではその内容にあった「具体的な求人は?」というところまで、独力でたどり着けるのは、ごく一部のスーパービジネスパースンだけでした。
 フォークリフトが走り回るような大きな倉庫の中の膨大な在庫の中から、自分の必要とする商品を選べと言われても、困惑するばかりでしょう。小売店舗で目指すブランドや商品看板に出かけ、その店の仕入れ担当者によってえらばれた商品について販売員の方から商品説明を聞き、「あなたのオススメは?」といった会話や助言の中で自問自答もして購入商品を決定することも必要だと思います。

 今回の職業安定法改正の過程での論議を見聞きしていると、入職経路の内ハローワークや民間職業紹介などによるものが約3割、今回改めて届出制などを導入してその内容を行政が把握できるようになる募集情報等提供事業などが約3割とされています。
 ハローワークや民間職業紹介経由での入職で、もし人材の不満や紛争が発生しても行政機関や業界団体が把握して、紛争解決に向けて努力し、再発防止策を講じることができる(た)のですから、今までその内容を必ずしも把握できていなかった募集情報等提供事業に届出制が適用され、事業概況の報告が義務づけられることで、その実情を把握した上で、日本で働く人材がご自分の適職を見つけるルートが適切に運用できる施策が検討実施されていくことが期待されます。
 人材の立場からは、多くの情報を得てご自分の進路を検討したい方は「募集情報等提供事業」を利用し、様々なプロのキャリアコンサルティングを受けながら次の職業人生を考えたい方には「職業紹介事業」を利用するという、大きな二つのしくみの選択肢がきちんと法の下で運営されることの実現に向かいつつあるように思います。
 職業紹介に従事するみなさんにとっては、「助言の価値」「編集の価値」がさらに問われる時代でもあります。
 これを機に、今まで以上に個々の人材が自分を活かし、雇用企業も適切に人材を確保できる時代に大きく進むと素晴らしいですね。

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)