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逆求人型採用の未来

就職・採用アナリスト 斎藤 幸江

●ここ数年で急拡大
2015年頃から、スカウト型、逆求人型といわれる手法が、新卒採用・就職市場で話題になり始めた。求職者である学生がプロフィールを登録し、それを閲覧した採用担当者が興味を持った学生に直接連絡をして、採用へ結び付けていく。
当初は、上位校に登録者を絞り込んでおり、利用者も少なく、精鋭を青田買いしたい企業が、優秀な学生にアクセスするツールだった。実際、地方大の女子学生が利用しようとしたところ、「あなたの大学からは、登録者がいないし、企業が興味を持ってくれるかも保証できない。もし、当サービスを利用したいなら、相当、がんばってもらわないと意味がない」と告げられたケースもあった。
サービス開始当初は、少人数ということもあり、webでのマッチングの前に、逆求人イベントといった対面マッチングも頻繁に行われていた。ちなみに上記の学生は、「それでも登録したい」と飛び込み、対面イベントで積極的に売り込んでチャンスをつかんでいった。
記憶に間違いがなければ、開始当初はキミスカが先行し、その後Offerboxが積極的に参入、そこからターゲットが急速に拡大していったようだ。
現在は、ベネッセ・パーソル系のdodaキャンパス、エンジャパン運営のiroots、動画でアピールするJOBTVなど、参入企業がさらに増加している。
その背景には、学生の就職情報サイト疲れや母集団から漏れがちな隠れたターゲット層への期待がある。
市場拡大とともに学生の利用者も増えて、こうした逆求人サイトの利用経験を持つ学生の割合は4〜5割といわれる(HR総研×楽天みん就:2023年卒学生就活動向調査(6月) 就職活動編)。学生と話していても、「オファー型、登録しています」という声をよく聞くようになり、就活生に身近なツールになったと実感している。

●今後は頭打ちか!?
登録者は急増しているものの、学生の満足度は軒並み高いわけではない。
使ってよかったという声は、いわゆる「ガツガツしている就活生」から挙がる。
「自己紹介やアピールの質を上げれば上げるほど、良いオファーが来るようになる。それをめざして自己PRを磨き上げられるメリットは大きい。
オファーが来たら、採用担当者から直接、自分のアピールのどこが響いたのかを教えてもらえる。それをもとにさらに内容をブラッシュアップし、より良いオファーの獲得を目指せる。
入社したい職場から声をかけてもらえればもちろん、嬉しい。しかし、応募書類のレベルアップを図る支援ツールとしての使い勝手が、すごくよかった。実際、オファーがたくさんもらえるようになった応募書類を一般応募で利用し、第一志望に入社できた」(20卒就活生)
こうした利用ができるのは少数だ。多くの学生は、応募書類のノウハウもわからないまま、無難な文章を書き、その結果、オファーをもらえずに使わずじまいになりやすい。
「少しは声がかかるかと思って登録したけどダメだった」と思った学生の多くは、登録したプロフィールは更新することなく、利用をやめてしまう。
「採用側目線での自分を知り、アピールのコツをつかむ好機」ととらえる気概がある学生と、「あわよくば、良い縁に巡り合えるかも」という受動的な学生といった登録者の二極化は、今後、さらに広がりそうだ。

●ポテンシャルに着目
こうした状況が続けば、利用者の頭打ちや低迷につながる。マッチング機会の拡大をねらい、各社とも適性検査の実施及び、その結果からの検索・アクセスといったサービスを採用側に提供し、学生の応募書類頼みにならない仕組みを築いている。
これらと応募書類をうまく組み合わせつつ、学生のポテンシャルを引き出すオファーが出せれば、学生・採用側双方にメリットのあるツールとして期待できそうだ。
たとえば、学生の登録が増える3年生11〜2月は、応募書類のレベル格差が広がりやすい。この時期に印象に残りにくい文章を書いていても、その後の1〜2ヶ月で経験値を上げて、採用通過レベルのアピールができるようになる学生も多い。
「いいものは持っていそうだが、アピールできていない」という学生を掘り起こし、「あなたには、伝えられていないいい点があるはず。それを見せてください」とオファーを出す、あるいは、B to Bで学生の知名度が低い企業であるなら、「知らない相手に対して良さをわかってもらう難しさは当社も経験済み。じっくり向き合ってお互いの魅力を伝え合いませんか?」と投げかけるなど、一歩踏み込んだアプローチをしては、どうだろうか。
就職情報サイトもそうだが、学生・採用側双方の利用数が多くなればなるほど、マッチングも複雑で困難になる。利用者の工夫と一手間で、ハンディを解消したい。