労働あ・ら・かると
新入社員育成は3つの“愛”を意識しよう
社会保険労務士 川越雄一
〇「あっ、また辞められた」。募集してようやく採用でき、何となく育ったかと思えば早期離職を繰り返される会社も少なくありません。そのような会社では、採用してもまた辞められるのではないかと、育成しようという気力もなえてしまいます。もちろん、労働時間や賃金が極端に低い場合は論外ですが、そうでない場合、早期離職の多さにはそれなりの原因があります。その一つが新入社員育成における“愛”(いつくしみ、思いやり)の不足です。
1.成長段階に応じた支援の愛
新入社員の成長段階に応じた職場環境を、タイムリーに整えて支援することです。新入社員育成の大前提である安心・安全な職場環境がおろそかになっていたりすれば、不安・不満が先立ち早々に潰してしまいます。
●安心・安全の確保は最低条件
生活できる賃金、健康を保てる労働時間・休日、衛生的な職場環境、など働くうえでの最低限の環境を整えることは絶対条件です。加えて、職場内でのパワハラなどがないことも重要です。これらの安心・安全が満たされていないと、いくら育成しようにも新入社員は自ら成長しようという気になりません。
●支援の愛不足がもたらす歪み
たとえ前職で同じような仕事をしていた経験者とはいえ、自社での仕事は初めてです。ですから、教育もそこそこに仕事をさせてしまうと我流でやってしまいます。我流というのは中途半端な仕事ぶりになりやすいものです。また、先輩などから愛情をもって教えてもらう経験をしませんから、教える立場になっても教えるという意識が気薄になります。
●「急がば回れ」で育てる
多くの仕事は一人前になるために3年かかります。一日も早く一人前にと、焦ってしまうと逆に時間がかかったり、潰して早期離職させてしまいます。ですから、ここは「急がば回れ」で臨むことが必要です。昔から会社を辞めたくなる周期として、よく三日三月三年(みっか・みつき・さんねん)といわれます。この3つの時期に応じたタイムリーな支援を行うことが肝要です。
2.理解・共感の愛
新入社員の目線に立って、その気持ちに理解・共感しながら育成することです。新入社員が今、何を感じ、思い、考えているか、その立場に立って、気持ちに寄り添います。
●つい発してしまう2つの禁句
教える側も自分の仕事をこなしながら指導しているわけですから、忙しいと悪気はなくても言葉で突き放してしまうことがあります。基礎的なことを聞かれると、「そのくらい自分で考えて」と突き放し、忙しそうにしている先輩に聞きづらく、自分で考えてやってみて失敗すると「なんで聞いてくれなかったの」と責め立てられます。
●理解・共感の不足で孤立しビクビク
新入社員は多くの場合、分からないことが分からない状態ではないでしょうか。つまり、自分は何が分かっていなくて、何を、どのように聞けばいいのかも分からないのです。ところが、聞けば聞いたで面倒くさそうに突き放され、聞かずにやって失敗すると責め立てられれば職場内で孤立しビクビクです。
●新入社員の目線に立ったアドバイス
まずは聞きやすい雰囲気をつくります。例えば、「分からないことは何でも聞いてくださいね」と声掛けしたり、「そうそう、私も入った頃はこれが分からなくてね」などと共感してやると聞きやすくなるものです。頭ごなしに怒ったり、「この前も言ったよね」などという言い方は新入社員を委縮させてしまいます。
3.指導者自身への愛
指導者自身が新入社員の成長を楽しむことです。新入社員は指導者である先輩社員や上司がイライラしていると、自分は嫌われていると思い込み早期離職してしまいます。ですから新入社員の成長を成果としてほめたたえ、指導者自身をイキイキさせておきます。
●指導者に余裕なくイライラ
確かに、新入社員にも個人差があり、1回教えれば分かる人もいれば、2回、3回教えても分からない人もいます。後者の場合は無意識のうちに言動や態度が厳しくなったりします。特に仕事が忙しくて余裕がない場合は、教えるより自分でやったほうが早いくらいです。そこでつい、「もういい、私が自分でやる」なんてことも。
●「自分がいるせいで」
指導者がいつもイライラしていたり、落ちこみクヨクヨしたりしていると、新入社員はそれを敏感に感じとり、「自分がいるせいで、先輩は嫌な思いをしている」と自己否定をする場合があります。真面目な新入社員ほどその傾向が強いと思います。「だったら、迷惑をかけないよう今のうちに」と早期離職してしまいます。
●指導者のイキイキで育成が促される
いつも一緒にいると気付きにくいのですが、新入社員は日々成長しています。もちろん個人差はありますが、昨日より今日、今日より明日という具合に成長しています。「さすがは〇〇さんの指導は良いね」とほめられれば、指導者も悪い気はせずイキイキします。そうなると、新入社員も嬉しくなって成長が促進されます。
新入社員が早期離職を繰り返す場合は、本稿で取り上げた3つの愛不足がないかを考えてみてはどうでしょうか。そこから課題解決のヒントがつかめるかもしれません。