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労働あ・ら・かると

広がる就活サービスの闇

就職・採用アナリスト 斎藤 幸江

●就活塾等のトラブルが増加
昨年12月29日付の日本経済新聞 電子版に「就活支援の契約トラブル、オンライン型増加 大学が対策」という記事が掲載された。
就活支援サービスをめぐる契約トラブルが増加中で、年末までにすでに、21年度1年分の相談件数を超えたという(国民生活センター)。
コロナ禍で思うような学生生活を送れず、かつ、この1、2年間で希望業種・職種の採用手控えなども起きた。不安が高まる中、巧妙に「ちゃんとした支援を受ければ、内定する」と口説かれて、つい契約という学生が増えている。
筆者のもとに、「現在、利用している奨学金ではとても足りないので、ほかにも応募したい。申請書類内容を見て欲しい」と依頼してきた学生がいる。「いったい、何に遣うの?」と尋ねたら、「どうしても就職塾に通いたい。30万円ほどかかる」という。
相談なら、私にしてよ! タダだし、キャリアも実績もあるよ!と言いかけて、「コストに見合う結果が得られるとは限らないよ。逆に、『あなたに向いているのは、この職場、この仕事だから』と先方に都合のいい就職先を強要されることもある。契約は、ひとまず停止して、今、できることを考えて一緒に頑張ってみない?」と促した。
「わかりました」と言ってはいたが、実際、どうなったのかは不明。
「希望する企業に、絶対、内定できますか?」という学生の質問に、「ウチの支援をしっかり受けて、ちゃんと頑張れば、絶対受かります。中堅大学から有名大企業に内定した塾生も、こんなにいます」と「保証」をちらつかせて勧誘する彼ら。大学の相談員・教員より頼もしそうと、学生が惹かれるのは悔しいが、止め切れないのが現状だ。
「大学の門前やひどい時は学内で、堂々と学生に声をかけ、勧誘していく。何度も注意したが、やめない。学生に無視するよう言っても、効果には限度があり、手を焼いている」(首都圏私大 キャリアセンター職員)と、執拗な勧誘も目立っている。

●早期インターンで囲い込みも
こんな話も聞いた。
2022年度になり、やっと大学の授業が対面になったのに、まったく出席しない学生がいる。1年の時から始めた長期インターンシップが忙しくて、大学に通う暇がないのだという。
「大学で学ぶより大きな成長実感がある。私は、ここでこそ、人材としてのスキルをアップできる。その価値を大学も認めてほしい」と学生にいわれ、担当教員は呆れながら、対策に苦慮していた。
入学式もコロナで中止やオンラインとなった、24年春卒業予定の現3年生は、学内での人間関係を十分に構築できなかった。
こうした隙間に巧みに入り込み、対面でグループワークやセミナーなどを積極的に提供し、リアルなコミュニティを作ってしまう。学生の興味と信頼をしっかりつかんだ後は、「インターンシップ」という名のもとに無償労働や違法ギリギリの勧誘活動に巻き込むケースも、起きている。
教員やキャリアセンター職員、友人などが警鐘を鳴らしても、より人間関係の濃いインターンシップ先や就活塾の社員を信頼してしまい、耳を貸さない。こうした事例は、前述の契約トラブルの数値としては見えず、より深い部分で、就活を取り巻くビジネスの被害は広がっている。

●周囲を”ディスって”孤立を図る
こうしたサービスの特徴に、学生の周囲をディスって、すなわち貶めて、本人に優位性を植え付ける、周囲と切り離す点が挙げられる。
「ご両親? あの世代とは就活もまったく違うので、参考にならないですよ」
「塾なんていらないなんて言っている学生が、後で泣くハメになるんだ」
「(インターンに長期参加した)ウチと比べて、就活で出会った企業なんか、本当の一部、それも相手が見せたい、いい点しか見てないよね」
内定や入社後のほんの数年のキャリアなど(例:ウチは二十代で活躍できて)、短期のゴールを示すのも特徴だ。
「自分らしい人生を長い期間、考えながら進めていくには、どうすべきか? 何が必要か?」
学生にはそんなふうに問いかけて、果たして周囲を見下すことを促すアプローチが健全なのか、相手の〜すれば、幸せだよね?という価値観が自分に本当に合っているのかを考えるよう、勧めているが、ハマってしまった学生には届きにくい。
もし、「なぜ、こんなに上から目線?」、「妙に自信がある面接態度だ」など違和感を持つ就活生に出会ったら、就活塾や怪しい長期インターンの経験者かもしれない。
自分のことでいっぱいいっぱいで、利他的な視点を持ちにくいのが、彼らの特徴でもある。
「成長できた後、誰にどんな貢献をしたいですか?」と聞いてみると、案外、見抜けるかもしれない。