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学生目線でのマッチング

就職・採用アナリスト 斎藤 幸江

●高いオンライン面接の活用度
2024年卒業予定者の採用活動が盛んで、早期選考を中心に、最終段階に進む学生が増えている。
コロナ禍も相当小さくなり、就職・採用活動も対面への回帰があるだろうと予想していた。ところが、「複数回参加したインターンシップも、最終を含むすべての面接も、オンラインのみです」という声を、かなり聞く。
22年春入社者採用では、全プロセスオンラインで選考したところ、入社後に人物像の見極めの甘さが露呈したとの声も聞かれていたので、来春採用の選考では、さすがに一回は対面を入れるのでは?と思っていた。意外である。
学生もそれで問題はないのかと思い、質問したところ、地方大学の学生や遠距離応募の場合、「もやもやしないわけではないが、交通費や滞在費、時間のロスなどの負担と対面のメリットを比べてみると、微妙。
まぁ、じっくり話を聞いてくれたり、説明をしてもらったりしたから、大丈夫じゃないかなぁって、納得して、うーん、納得させて? います」とのことだった。
採用側の求めに素直に従い、初めての就活を“こなしてきた”感もある学生たち。一区切りついて冷静になり「受け身」でなくなった時に、心変わりはしないのだろうか?
「やっぱり一度も行っていない会社で毎日働くってどうなんだろう?」と疑問が湧きそうだ。しかも内定から入社まで一年余りと長い。ここでのフォロー次第で、内定歩留まり率はかなり変わるだろう。

●最終面接は、対面して判断
オンライン・対面のハイブリッドでよくみられる形式が、「最終面接だけは対面」というスタイルだ。
採用側にしてみれば、内定を出す前に実際に応募者に会って、人物を把握してから決めたいという期待がある。同時に、学生に対しても、「最後に勤務先を訪れて、自身との適性の確認、あるいは入社意思の強化につなげて欲しい」という願いを抱く。
お互い、時間と労力をかけて、最終判断を納得感あるものにしていきたい、というのが、採用側の考えだ。
応募者の雰囲気や人柄、ストレスやプレッシャーへの反応など、対面ならでは把握できる情報量は多く、採否の判断には、効果的だ。

●最終面接のみでのマッチングは困難
しかし、この捉え方には盲点がある。学生に、最終面接のみの訪問で、企業の理解を深めてもらうのは、実は大変難しい。
オンラインでつながっていた志望先と初めて対面で会う。そうした状況は、学生にとって大きなプレッシャーだ。訪問先へ向かう不安、ほぼ未経験の入室から退室までのマナー、志望先の重職の方々と対面で向き合う緊張感などが重なって、彼らに余裕はない。
「初めて本社に行ったんだよね? 雰囲気はどうだった?」と質問しても、「面接に向き合うだけでいっぱいいっぱいで、思ったより立派なビルで綺麗なオフィスだったなぁ、くらいしか……」という学生が少なくない。
対面を重ねた上での最終面接と、初訪問としてのそれでは、彼らの心理状態は相当違う。後者の場合、「自分がどう見られるか」、「どう見せればいいか」だけで意識は飽和状態。オフィスや社員を観察し、社風を把握したり、自分との適性を考えたりなど、興味や関心を外に向けるゆとりは、持てないのが実情だ。
一次や二次の対面面接ならば、待ち時間に他の学生の様子を垣間見たり(注 最近の就活生は、他人に話しかけない)、さほど緊張感をもたずに社内を観察したりできる。しかし、最終面接は、待機時間も少なく、他の応募者と会う機会がない場合も多く、そうした情報不足も生じやすい。
この点を採用側には、認識してほしい。

●学生に「見極め」の機会の提供を
そこで、お願いしたいのが、学生が志望先をリアルにチェックできる機会の提供である。
コロナ前だが、最終面接の前に選考に進む学生同士で懇親の機会を持つ、社内ツアーを企画するなどの工夫をした企業があった。
「どういう強みや魅力を持った人が選考に残るのかを確認できて、刺激になった。また、社内を見たり、社員と接したりできたために、内定を一方的にもらうのではなく、双方の意思が一致して入社が成り立つという自覚が生まれた。
自分も意思決定の当事者なのだから、責任を持ってこの会社で働きたいかどうかを、判断しようと考えるようになった。最終選考前にそれができたことは、本当によかった」(食品メーカー 内定者)
「最終だけ対面」の選考スタイルを取る企業は、24年春の新卒採用でも多そうだ。
せっかく足を運んでもらうのだから、「企業理解」+「選考」のセットと考え、学生の納得感や理解を醸成する機会として活用しては、いかがだろう? そして、歩留まり率の改善や入社意思の向上、ひいては企業イメージの向上につなげてほしい。