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求人広告・求人宣伝と、的確適切な求人情報提供

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

昨年の職業安定法改正の主眼の第一に掲げられていたのは「求人等に関する情報の的確な表示の義務化」でありました。
偶然の一致かもしれませんが改正法案が国会で成立した3月の翌月4月27日に、人材紹介事業者のいわゆる「求人サイト」の掲載内容(広告)について、消費者庁から、景品表示法に違反する行為(同法第5条第1号(優良誤認)に該当)が認められたとして、措置命令という行政処分が出されました。
職業安定法の指針に「職業紹介事業に関する宣伝広告の実施に当たっては、法第五条の四第一項及び第三項並びに不当景品類及び不当表示防止法の趣旨に鑑みて、不当に求人者又は求職者を誘引し、合理的な選択を阻害するおそれがある不当な表示をしてはならないこと。」と、「不当景品類及び不当表示防止法」の文字が付け加わったのは、前回平成29年の職安法改正の時だったように記憶しています。
職安法が出来た昭和22年の時から、当時の第六十五条に「虚偽の広告をなし、又は虚偽の条件を呈示して、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行った者又はこれらに従事した者」は、これを六箇月以下の懲役又は五千円以下の罰金に処する。」と定められ、この罰則は罰金額こそ三十万円となったものの、現在の職安法に引き継がれています。

「広告」というものについては、過去の裁判例では「そもそも商品広告は、それを見る者の関心を引きつけ、購買意欲をあおるための扇動的な表現や、当該商品等のセールスポイントをことさらに強調するような表現が用いられがちであるし、それを見る者においても、商品広告がかかる性質を有することを十分認識しているのが通常であるといえる。」と判決文に記載されたこともありました。前述の「景表法の主旨に鑑みて」との告示が出されて以降は、少なくとも職業紹介を利用する人材に対しては「十分認識しているのが通常」と考えられず、現実はそれとは反対で、前述の消費者庁による行政処分が象徴しているように思えます。

「広告」について、筆者の愛用している紙の新明解国語辞典(三省堂/第五版)を引いてみると、「広く世間に知らせること。また、そのための文書など」とあり、[狭義では、新聞・雑誌などに掲載する商業宣伝を指す]とあります。
「宣伝」を引いてみると、「そのものの存在・よさなどを大衆に分かるように説明して広めていくこと」とあり、[広義では、事実より以上に大げさに言いふらすことをも指す]とあり、例の中には「はでなーに釣られる」とも載せられていました。
求人広告は「大げさ(=誇張・誇大)」であっては、応募を検討する人材の誤解を生んでしまうことにつながりかねず、「適切な情報提供」とは言えません。
「商品の宣伝広告」とは異なり、事実以上に「盛った」り「良い点だけを強調」して、単に応募人材を増やすことに汲々とするのではなく、求人条件にマッチした人材の応募を実現するために、職務内容や処遇を的確に述べ、淡々と誤解を排除する表記が求められるのではないでしょうか。

ともすれば「集客」といった商品マーケティング的な言葉を無配慮に使っている記述が多く目につくのですが、商品購買を訴えることと混同した「転職扇動宣伝」が、求人情報を伝える場にあふれることは、求人者にとっても応募人材にとっても良いことではないと思います。
また、職業紹介事業では禁止されている「金銭等提供による求職登録の勧奨」が、募集情報等提供事業には現状適用されないことをいいことに、提供情報の信頼性で競争するのではなくお祝い金の多寡によって応募者を増やすことに汲々としているように見える「募集情報等提供サイト」についての指摘も増加しており、放置すべきではありません。
応募職務、応募企業の内容をきちんと理解できる情報提供によって、応募人材が就業後の実際の職場環境や労働条件を的確に想像できるようにすることが大事であって、処遇内容の誤解や過剰期待満載の人材の応募が多くなることは、求人者にとっても選考過程に無用な負荷をかけることになってしまいますし、人材の徒労も増加させてしまうことになります。

現在の政策に掲げられている「成長分野への円滑な労働移動」は、移動する人材の負荷に想いを馳せた「人の心のある仲介行為」があってこそ、実現できるわけで、目先の「にぎやかし」「はやしたて」にまみれた情報提供は、円滑な移動を阻害することにしかならないのでは、という危機感を感じないわけにはいきません。もう少し想像力を働かせた「的確適切な求人情報提供」が実現できないものかと思っています。
以上

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)