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25卒を親世代から読み解く

就職・採用アナリスト 斎藤 幸江

●両親は、氷河期世代
キャリア教育科目の授業の終わりに、「社会人経験者(フルタイムでの就業を1年以上続けた人)に取材をして、内容と考察をレポートにまとめる」という課題を、毎年、課している。今年の前期授業でも、3年次(25年卒業予定者)を対象に、求めた。
毎年、過半数の学生が、家族を対象に選ぶ。中でも、両親のいずれか、両方を選ぶ学生の割合が高い。地方私大の200名余のクラスでは、半数以上が両親を取材した。
前年以前と比較して、変化を感じたのが、両親の世代である。2〜3年前はバブル期に就職活動を経験した人たちが主流だった。学生が頑張って取材をしても、
「研究室の教授に、『こんな大企業から求人が来るなんて、今だけだぞ! チャンスだから、ここに入りなさい』といわれて、条件もよかったから、そのまま推薦で入社した。
やりがい? 仕事内容? 特に気にしなかったなぁ。立派な会社に入れて、いい給料をもらえたら、十分だと思っていたし……。
あなたたちは大変そうだから、しっかりがんばって。でも入ったら入ったで、なんとかなる面もあると思うよ」(技術者の父親)
と返ってくるなど、学生を失望させる内容がみられた。
それが一点して今や、「就活や進路選択は、真剣に芯を持ってしっかり向き合うことが必要」、「可能性を広げて適性をよく見極めた方がいい」など、厳しいアドバイスが目白押しだ。

●氷河期初期の就職活動
就職氷河期といわれる時代は、バブルの終焉に始まる。1991年にバブルが崩壊した。その後の採用計画縮小の影響を受け始める、すなわち採用予定数が前年を下回るのは(労働省(当時)調べ)、93〜94年春の卒業者となる。現在、50歳を迎えた年代だ。
当時の就職・採用活動の資料を紐解いてみると、この時期から、理系で学校推薦をとっても、落ちる事例が出てきている。前出の「望外の企業に苦労せず入れるバブル期」と比べるとわずか数年で、天と地の違いだ。
94年春新卒入社者を対象にした調査では(筆者が調査を担当、全国国公私立29大学男子学生対象 回答数3498)、資料請求ハガキの平均投函数が、210と2年前の2倍になっていて、その急変ぶりがよくわかる。
就職に有利といわれていた短大の価値が急落したのもこの時期だ。労働省(当時)調査によれば、94年春卒業者は、前年比採用計画数が14.6%と大幅に減少した(大卒は、同-0.3%)
実際に短大卒の母親からも当時の就活の厳しさを伝える声が挙がっている。進学時に専門学校と迷っていたら、「なにがなんでも四大に入学しなさい」と求められた女子学生も多い。

●周囲への期待も高い親たち
こうした背景から、子女には悔いのない就活をして欲しいという期待と働きかけが強いのが、この親世代の特徴だ。学生の個別相談でも、「インターンシップにはぜひ、参加しなさい。私たちの時にはなかったから、企業選びで苦労した」、「インターンにはいくつ、行くの? どこに行くの?」など、親からのプレッシャーがかなり強いという話が、今年はよく聞かれている。
同時に大学に対しての期待が高いのも、この世代の両親の特徴である。
筆者は、親世代のキャリアや就活支援にも携わっていたが、大学が急変する就職環境についていけず、「前例が参考にならない状況で、大学にもっと本腰を入れてサポートしてほしかった」という要望を、当時はよく耳にした。
これらの経験があるせいか、「今はインターンシップや就職支援の体制も充実しているのだから、大学にはしっかり取り組んでほしい」という期待も高まっている。
各大学からは、保護者説明会や個別の連絡などで、様々な要望や過度とも思われる期待が、増え続けていると聞く。
前の世代よりも、子女の進路選択・決定への影響力が強そうな、氷河期世代の両親。
「親がどうしても納得しない」といった理由の内定辞退が、以前より増えるかもしれない。
内定者が家族と共有したくなる企業情報の発信や、先の親への取材のように、親を巻き込んだ課題の設定など、内定先への親の理解を促す仕組みを、念頭に置いては、どうだろうか。