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「どうする人事」、家康はこうした

社会保険労務士 川越雄一

今年のNHK大河ドラマ「どうする家康」もいよいよ佳境に入りつつあり、毎週楽しみにされている方も多いのではないでしょうか。もちろん、このドラマは戦国物の面白さもさることながら、人事という視点からもおおいに参考になります。ところで、徳川家康といえば、江戸幕府270年の礎を築いた名将です。しかし、そのような名将でも家来の扱いには、それなりに悩んでいたようで、亡くなる直前に記されたとされる「大将の戒め」は非常に奥が深く、人事のあり方に大きなヒントを与えてくれます。

 

1.家康が残した名言「大将の戒め」とは
元和2年6月(1616年)、家康が亡くなる直前に記されたとされるのが「大将の戒め」です。400年前とは時代背景が違いますが、大将を経営者(上司)に、家来を従業員(部下)に置き換えれば人事のツボが見えてきます。

「大将の戒め」

●大将というものは
敬(うやま)われているようでその実家来に
絶えず落ち度を探られているものだ
恐れられているようで侮(あなど)られ
親しまれているようで疎(うと)んじられ
好かれているようで憎まれているものじゃ

●大将というものは
絶えず勉強せねばならぬし
礼儀もわきまえねばならね
よい家来を持とうと思うなら
わが食を減らしても
家来にひもじい思いをさせてはならぬ
自分ひとりでは何も出きぬ
これが三十二年間つくづく
思い知らされた家康が経験ぞ

・家来というものは
禄(ろく)でつないでならず、機嫌をとってはならず、
遠ざけてはならず、近づけてはならず、
怒らせてはならず、油断させてはならぬものだ

「ではどうすればよいので」

家来は惚れさせねばならぬものよ

 

2.「大将の戒め」から得られる教訓

 

 さすがは名将の残した言葉だけに、具体的で含蓄(がんちく)に富んだ内容ですが、そこから次のような教訓が得られます。

●絶えず勉強すること
世の中は日々変わっていますから、それに応じて絶えず勉強をすることが必要です。経営は、よく「ヒト・モノ・カネ」と言われますが、それぞれに勉強が必要です。人事でいうなら、労働関係の法律はもちろん、賃金など労働条件の世間相場、従業員とのコミュニケーションの図り方などです。経営者が勉強していれば従業員も勉強します。
●礼儀をわきまえること
中小企業は大家族的な雇用関係が良いと思います。しかし、大家族とはいえ、本来は他人ですから一線を越えるような無礼があってはいけません。「親しき中にも礼儀あり」です。経営者は一見、親しまれているようで疎んじられていることも多く、従業員や部下であっても、顧客に接するようにそれなりの礼を尽くします。
●従業員にはそれなりの処遇をすること
「衣食足りて礼節を知る」ともいいます。賃金や労働時間・休日などが世間並みにあってこその職場秩序であり、業績向上です。特に昨今の人材獲得難からして、処遇改善は待ったなしです。経営が芳しくない会社にとっては厳しい言い方かもしれませんが、経営者の役員報酬を減らしてでも、処遇改善の原資に回すことも必要です。

 

3.従業員に惚れさせる3つの方向性

 

家康は「大将の戒め」の最後で、家来への対応について「家来は惚れさせねばならぬものよ」と諭しています。ここがツボでしょうが、今の時代、よほどカリスマ的な経営者はともかく、ルールで組織運営を行う経営者のマネジメント姿勢に惚れさせることが王道ではないでしょうか。

●約束(ルール)を決める
従業員とは雇用関係ですから、お互いの関係は約束(ルール)が原点です。世の中が複雑化すればするほど約束(ルール)が重要になりますが、一般的には就業規則に定めます。就業規則を作成する際のポイントは、できるだけ曖昧(あいまい)な部分を残さないということです。人によって解釈が分かれると、約束(ルール)の意味合いが薄れるからです。
●決めた約束(ルール)に則った組織運営を行う
「仏造って魂入れず」と言われますが、約束(ルール)である就業規則も同じです。ただ作成はしたものの、金庫の中に大切に保管されていたり、就業規則どおりに組織運営ができていなければ意味がありません。ですから、経営者、従業員双方が就業規則の規定に基づき組織運営を行う習慣をつけ、それを社風とします。
●約束(ルール)の確認・改善を行う
たとえ立派な約束(ルール)であっても、法律改正や時代の流れもあり不都合が出てきます。ですから、定期的に就業規則の内容を見直すなど確認・改善作業が必要になります。このような確認・改善を行うことで労使の信頼関係が深まり、そのようなことに取り組む経営者の姿勢に従業員は惚れるのです。

人事に関する悩みは400年前とさほど変わっていないかもしれません。正解があるわけではないでしょうが、家康が悩んだ末に絞り出された「大将の戒め」は、大きなヒントにななるのではないでしょうか。さあ、「あなたはどうする」。