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労働あ・ら・かると

小さな会社の労務は家庭料理感覚を持とう

社会保険労務士 川越雄一

 

労務を料理にたとえるなら、大企業はレストラン料理、小さな会社は家庭料理だと思います。この2つ、食べ物という点では共通していますが、食材や作り方は大きく違います。ですから、小さな会社は身の丈に合った、家庭料理感覚の労務を意識することが重要なのです。

 

1.大企業の労務はレストラン料理
大企業の労務はレストラン料理です。メニューが起点であり、それに必要な食材を希望どおりに調達できますから、仕事に合わせて人材を採用し配置していくことができます。
●レストラン料理はメニューが起点
レストランにはメニューがあります。和食・洋食・中華、それぞれのお店が、お客の好みそうなメニューを考えメニュー表に記載します。そして、お客からのオーダーに応じて料理を作り提供します。時代に応じて多少のアレンジはあるにせよ、いつ行っても同じ見た目、味を楽しむことができます。
●食材は希望どおりに調達できる
レストランは食材業者から必要な食材を調達します。高級店になればなるほど食材へのこだわりもあり、大きさや質、産地などを指定し、それに合うものを決まった日時・場所に届けさせます。場合によっては自社の工場や農園を持っている場合もあります。いずれにしても、必要な食材は希望どおりに調達できるのです。
●仕事に合わせて人材を配置
大企業の労務はレストラン料理同様、仕事に合わせ必要な人材が定期的に新卒を中心に採用・確保できます。もちろん、今は求人難で思うように採用できないかもしれませんが、小さな会社の比ではありません。こうして採用・確保できた人材を必要な部署に配置できます。また、仕事に人が付きますから定期的な配置転換も可能です。

2.小さな会社の労務は家庭料理
小さな会社の労務は家庭料理です。今ある食材が起点であり、それに応じてメニューを考えるように、人材に合わせて仕事が進みます。
●家庭料理は食材が起点
多くの場合、家庭料理というのは冷蔵庫の中にある食材に応じて、その日のメニューが決まるのではないでしょうか。少なくとも私が小さい頃はそうでした。カレーを作ろうとしていたところ、カレー粉がなくて肉じゃがに、焼肉で余った野菜が翌日は焼きそばに、といった具合です。ですから、同じメニューでも具材が毎回微妙に違うのです。
●食材はある物が原則
もちろん、家庭料理でもメニューに合わせて買い物には行くでしょうが、そのとおりにはいかないことも多いのではないでしょうか。また、生鮮品は価格変動もありますから、やむを得ず代用品になることも少なくないと思います。メニューに合わせて食材を調達するというより、今ある食材、もしくは今手に入りやすい食材利用が原則です。
●人材に合わせて仕事を進める
小さな会社の労務は家庭料理同様、今いる人材に合わせて仕事を進めることになります。また、こちらの希望に100%合う人材が採用できることは稀(まれ)です。特に今のような求人難の時代は、こちらの希望とは少々違っていても頭数確保が優先されます。小さな会社では人に仕事が付きますから、配置転換もままなりません。

3.家庭料理感覚の労務3つの視点
レストラン料理と家庭料理が根本的に違うのと同じで、小さな会社の労務には大企業とは違った感覚が必要です。
●身の丈に合った組織体制
身の丈に合ったというのは、その規模らしいということです。例えば、従業員規模20人くらいの会社に部長、課長が何人もいてはおかしいということです。もちろん、名刺に箔(はく)をつけることが目的であれば良いかもしれませんが、これを労働基準法上の「管理監督者」にするとなると話はますますおかしなことになります。
●今いる人材の定着・育成
小さな会社は希望どおりの人材をそう簡単に採用できません。「あれはダメ、これもイマイチ」などと言っていると誰もいなくなります。ですから、今いる(いてくれる)人材を大切にし、定着させて育成するしかありません。もちろん、育成しても社長の希望どおりにはならないかもしれませんが、その場合はその能力に合う仕事しか受注できないということです。
●愛情を注ぐ
小さな会社の労務において、ポイントは家庭料理と同じく愛情を注ぐことです。愛情とは相手をいとしく思う気持、人や物に対するあたたかい心です。これが会社の風土なのかもしれません。家庭料理もお母さんやお父さんが家族のために愛情を注ぐからこそ、どこの家の家庭料理、どんなレストラン料理にも負けない味になるのです。

今は労務トラブルが多いのですが、その一因として考えられるのが、大企業の労務を表面だけ真似していることです。ですから、小さな会社の労務は家庭料理と同じく、今いる人材を大切にしながら身の丈に合った感覚を持つことが重要なのです。