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労働あ・ら・かると

長引くコロナ禍の影響

就職・採用アナリスト 斎藤 幸江

●賑わう春のキャンパス
4月に新年度を迎えて、サークルの勧誘やさまざまな告知(自動車学校、詐欺被害喚起、イベントなど盛り沢山!)、そして談笑する声で、大学構内は華やいでいる。今年は、5月病に罹る学生も少ないのではないか?と思いながら、ふと気づいた。
あれ? キャンパスって、こんなに賑やかだったっけ?
コロナが5類に移行して初めての新年度が、今春だったのだ。
そういえば、去年の春はまだマスクの学生も多く、かつ、「私語は控えめに」ムードが漂っていた。マスクを外し、大きな声で、「この間、聞いたと思うんだけど、どこ出身だっけ?」とか「結局さぁ、めちゃめちゃ悩んでいた科目、履修するの?」なんていう会話は、聞かれなかった。

●ダマされそう!?な25卒
活気ある大学を見て、思い出したことがある。25卒の就職活動だ。
今やピークを過ぎつつある新卒採用戦線だが、彼らの相談に応じていて、「なぜ、こんなに素直なんだろう?」と心配になることがよくある。
採用側の説明を鵜呑みにしすぎるのである。
「本当に良い会社で、ぜひ来てくださいといわれているし、雰囲気もよくて、もう、こんな良い会社ないって思いました」
(でも、工場閉鎖やリストラで話題になっているよね)

「ベンチャーですけど、SDGs関連事業に力を入れていて、私の価値観とぴったりなんです!」
「ホームページを見たけど、パリピっぽい社員だらけじゃない? ハヤりもので儲けたいだけの会社かも、って心配になったよ」と私。
「私も派手かなって思ったんですけど、人事の人が、『どこの会社にも、いろんな人がいるから!』って。真面目に頑張っている人もいるそうです」
(ちょっとでも疑ったのなら、もっと調べようよ!)

「お客様のことを真摯に考えて、こんなに力になれる仕事はないって、言っていました! 私も社員のお話を聞いて、納得です!」
(結構、その営業は、鋼の心が必要だと思うよ)

なぜ、そこまで素直になれるのか?と呆れつつ心配したが、今春の学生の姿を見て、思った。
何気ないリアルな雑談から、ひとは、邪なものへの注意喚起を得るのではないか。

●「気軽に会話」のハードル
2021年に入学し、躊躇なくマスクを取り、声を出して会話ができる5類移行まで2年余。特に地方では、昨夏でも半数あるいはそれ以上がマスクを着用していた。
私語は控えめに、という長い期間を経て、交流解禁となったからといってすぐに、距離を縮められるわけもない。会話も当たり障りのないレベルにとどまりがちだ。
「○○さん、ヤバイところの課金沼にハマったらしい」
「ブラックバイトに引っかかって、もう少しで悪徳販売員に闇堕ちするところだった」
といった、身近なドキッとする会話が、「世の中、気をつけないと!」と、気を引き締めるきっかけになる。
いくら、メディアが注意を喚起しても、身の回りで実例に触れないと、なかなかそちらにアンテナが伸びない。
酸いも甘いも嚙み分けるきっかけは、まず、フランクな人間関係ありき、だ。

●「もと」がないから戻れない
職場は、5類移行前からすっかり元通りで、会話も弾み、コミュニケーションも以前同様に行われるようになった。
せっかく、リモートが認められていたのに、出社がジョーシキに後戻りと嘆く声も聞かれる。
しかし、「コロナ前の生活に戻った!」と実感しているのは、戻る先がある人だけだ。そもそも「普通の大学生生活」を始められなかった就活生にしてみれば、いきなり会話OKになって、交流を図れるわけでもない。逆に、顔見知りなのに声がけを遠慮・躊躇していた分、気まずさがあるようだ。
というわけで、「コロナも収まったから、大学生もコロナ前に戻った」と考えるのには、あと2年くらいかかりそう。
大学生にしては、視野が狭い印象の25卒。「え? こんなことも知らないの?」、「もう少し、多面的に考えられないのかな」と感じたら、まだまだ、コロナが学生生活に影を落としている世代だと、認識してほしい。