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国の助成金受給で伸びる会社・ダメになる会社

社会保険労務士 川越雄一

 

「こんなはずじゃなかったのに……」。
厚生労働省など国は政策目的を達成するため、実に多くの助成金制度を設けています。助成金というのは融資などと違い、支給基準を満たせば受給でき返済しなくても良いお金ですから金銭的にはとても助かります。しかし、助成金の受給により伸びる会社・ダメになる会社はハッキリしています。では、なぜそのようなことになるのでしょうか。

1.企業等の取り組みを支援するとされている助成金制度

雇用関係の助成金では、企業等の行う賃上げ、育児休業、非正規の正社員化などにお金を出して支援するといわれていますが……。
●企業等の取り組みを支援する
助成金制度の目的には大体同じような趣旨のことが掲げてあります。「国が推進する施策に取り組んでほしいが、中小企業は資金的に大変だからお金を出して支援しますよ」というようなことです。もちろん、目的自体は理屈的に間違いでもありませんから、これに正面切って異を唱える人は少ないでしょう。
●支給基準は国が決める
お金をくれるといっても助成金は労働保険料等を原資にしている関係上、細かな支給基準というものがあります。この基準は当然ながら支給する側である国が決めます。「中小企業ではこんな基準はクリアできないよ。うちの方針には合わない」ことであったとしても、助成金を受給するならそれに従う必要があります。
●受給後の結果は自己責任
助成金は支給基準に合致すれば支給されます。これで国の仕事は基本的に終わりです。もちろん、不正受給等に対して受給後一定期間は国の調査対象となりますが、あとは助成金を受給した企業等の雇用関係や経営がどうなろうと基本的に国は関与しません。つまり、受給後の結果は企業等の自己責任となります。

2.伸びる会社は労務施策を助成金抜きで考える

助成金受給により会社を伸ばすには、助成金抜きで労務施策を考え、支給基準に過度な迎合をせず、受給した助成金は新たな人材投資に使うことです。
●国の施策を助成金抜きで考える
まず、助成金の支給目的である国の施策を助成金抜きで考えてみます。自社として、助成金など受給しなくても、取り組むべきことなのかどうかの判断です。仮に、経営方針に照らし施策自体に疑問を持つようなら助成金は無視すべきです。それでも、いずれ法律で義務化されたらその時に対応すれば済む話です。
●くれるというなら受給するくらいで良い
助成金の支給基準は国が決めたものですから、必ずしも会社の実態や考え方とは一致しません。しかし、助成金受給ありきで支給基準に過度な迎合することは避けます。助成金を取りに行ってはいけません。会社の実態や考え方を堂々と示して、支給基準に合えば受給するくらいの姿勢でちょうど良いのです。
●受給した助成金は人材投資に使う
とかく、助成金などのお金が入ると余計なことに使ったりするものです。従業員からしてみれば「私たちをネタに助成金を受給した途端、社長車が新車になったけど……」などと、助成金とは関係ないとしてもそう見られかねません。ですから、仮に助成金が受給できたら別口座に保管しておき、人材投資に使うようにします。

3.ダメになる会社は助成金に振り回される

一方、助成金に振り回されダメになる会社もあります。助成金受給のためには会社方針を平気で変えフラフラする会社です。どちらかといえば、こちらのほうが多いような気がします。「何か助成金はないか」などという、助成金ありきの発想は愚の骨頂です。
●助成金受給が取り組みの判断基準
ダメになる会社の起点は、「何か助成金はないか」、つまり雇用に関する施策の取り組みの判断基準が助成金になっています。そもそも、会社として何がしたいのかが不明確で、とにかく助成金受給が目的になっています。悪いことには、そのような会社を相手に助成金セミナーなど、受給を持ちかける人も多いということです。
●支給基準に無理して合わせる
助成金受給が目的となれば、会社方針を支給基準に無理して合わせるようになります。もちろん、支給基準に合わせることは悪いことばかりではありません。しかし、無理をしているとどこかで綻(ほころ)びが出ます。場合によっては、「建前はこうだけど、実際には……」となり、従業員に不信感を持たれるのは必定です。
●得したつもりで損をしている
「タダより高いものはない」といいますが、助成金というのはそのような要因をはらんでいます。助成金は雑収入ですから、大雑把にいうと半分は税金として国へ返すことになります。しかし、半分返したとしても、助成金受給の支給基準は法律の義務より前に対応しなくてはなりませんし、受給のために要した費用や調査対応などの会社の負う責任は半分にはなりません。

今はいろいろなところから言葉巧みに「助成金もらいませんか」の情報が入ります。「だったらうちでも…」ということになりますが、助成金受給にはメリット・デメリットがあるわけですから、ひと呼吸おいて、受給の可否を判断する必要があるのです。