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労働あ・ら・かると

新卒公務員という選択

就職・採用アナリスト 斎藤 幸江

●なかなか決まらない……
内定式まで数週間だが、まだまだ就職活動中の学生がいる。
ひとつは、マスコミなど、第一志望の業界を諦めずに挑戦を続けるタイプ、さらに、大学院入試落ち、留学帰り、自身や家族の病気などで出遅れたタイプ、そして、公務員志望一筋で結果が伴わないタイプだ。
最後のケースは、「とにかく公務員」という軸で就職活動をしており、国家では一般職、裁判所職員、国税専門官、そして地方では都道府県に市、さらに独立行政法人と、日程が重ならない限り、受けまくっている。
応募書類も面接も少しずつだが向上し、落ちるレベルも一次から二次、そして最終へと上がってきてはいるが、内定には至らない。
近年は、各公務員採用で応募倍率の低下が話題になっているが、それでも受からないのは、「果たしてこの応募者に仕事を任せられるのか」という点で、彼らの中に決め手が見つからないのだろう。

●「公務員になる」というゴール
こういった学生には特徴がある。家族、親戚など周囲が教員、公務員ばかりなのだ。彼らは異口同音に、「民間で働くのは全然イメージできなかったし、周囲からも当然のように、『教職課程を取っていないのなら、公務員だよね?』といわれてきた」という。
「あなたや兄弟姉妹を育てながら仕事を続けられたのは、制度が整っている公務員だったから」と伝えられながら育ち、それを鵜呑みにしている。
「子育てとの両立をちゃんとしたいから、公務員なんです」と言われる機会が、毎年、何度かある。すでに年金受給者となった祖父母や叔父叔母の姿を見て、「就職後も公務員が良い」との思いを強くする学生もいる。
民間より優遇されてきた共済年金制度が2015年に廃止され、民間企業でもワークライフバランスへの支援が進み、公務員以上のサポートを提供するところもある。しかし、そういった情報はアップデートされていない。
少し手を伸ばせば情報は手に入るのに、身近な人の意見に固められて目が向かない。そうした「確証バイアス」のような状況は、結構、起きるのだと毎年、考えさせられる。
人手不足で主体的な働き方を求めたい現場は、「公務員になること」をゴールとする応募者には内定は出さず、毎年、彼らの就活は長期化している。

●地域や社会のために役立ちたいが……
一方、公共経済や地域デザイン系専攻の新設や、あるいは最近、普及拡大が進む大学でのプロジェクト型授業(PBL)による地域との連携など、学生が社会問題に身近に接する機会は増えている。
自分もこうした担い手になりたいと、公務員をめざす学生も出てきている。しかし、就職先としての魅力を考えると二の足を踏むケースも、かなりある。
頻繁なジョブローテーションは、スキルアップにつながらないのではないか、適性に合った仕事に就けなかった場合のモチベーションの維持に自信がない、労働時間の多さや業務量が心配、職場が閉鎖的な気がする、などだ。
「やりたいことが、公務員の仕事」という軸で選択する学生の方が、客観的かつ広範に情報を集める。そのため、ネガティブな情報に予想以上に接することになり、志望が揺らいでしまう。
また、こうしたタイプは一般職でなく総合職を志望する。もともと行動力や高い意欲を持っているため、面接の経験値を上げる、可能性を探るといった目的で民間企業にも積極的に応募している。そちらから評価されるうちに、ますます迷う学生も多い。

●連携が進む、全国の公務員
「オンライン市役所」というネットワークをご存知だろうか? 全国1200の自治体や省庁で働く約6000人の公務員をつなぐオンラインプラットフォームだ(同HP https://www.online-shiyakusho.jp/)。コロナ対策では、問題点や作業フローなど数多くの情報やノウハウがシェアされ、未曾有の事態に立ち向かう現場職員の大きな力になった。いくつかのメディアで報道されたので、ご存知の方もいると思う。ここでは自主ゼミを開催したり、テーマ別にオンライン講座を開催をしたりして、職場を超えた経験や情報の共有、課題解決へのアプローチを積極的に行っている。
また、「Heroes of Local Government: 地方公務員を応援するメディア」(https://www.holg.jp/)というサイトもあり、自治体や公務員のユニークな取り組みに光を当てて紹介したり、情報の共有を図ったりしている。
こうしたサービスを利用すれば、不本意な配属や理想と現実の壁にぶつかっても、乗り切れるのではないか。
そんな期待も込めて、公務員をめざす学生に紹介している。「公務員がゴール」という学生には、「仕事内容にどれだけ興味を持てるかを、コンテンツからチェックしてほしい」と伝え、「やりたいことは確かにあるし、意欲はあるけれど、大丈夫か」と悩む学生には、「全国の頑張る公務員から学んだり、入職後はネットワークを活用したりできる。事例をみては?」と促している。
社会には不可欠だが、人手不足に悩む公務員。まだまだ残念なミスマッチが多く、解消には時間がかかりそうだ。