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アルムナイ採用が求人者の身勝手に見える時と成功につながる時

一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二

新聞記事によると過去に退職した会社に戻りたいと思ったことがあるかという質問を1000人に対してしたところ、30%の人が戻りたいと思ったことがあると答えたそうです。
「アルムナイ採用」という聞き慣れなかった人事用語もかなり定着してきたようです。そもそも「アラムナイ」とは、卒業生という意味だそうです。「ジョブリターン制度」「カムバック採用」などと区別して使用する向きもあるようですが、本稿では広く「元社員を採用する」という意味で進めます。
ここ半年ぐらいの間に、筆者はこの中途再採用というか 以前勤務した会社にまた就職したという人材と、再入社を誘われたけど断った人材双方の話を聞くことができました。筆者が話を聞くことができた方々の思いはそれぞれのようですので、いくつかをご紹介したいと思います。

最初は、いったん退職した会社に10年ぶりに再就職した女性の話です。
今は育児休業やその他がだいぶ普及してきましたが その人材は、当時結婚退職は最初から検討する気もなかったものの、その後夫君が単身赴任中に出産を迎えることになり、仕事との両立可能な環境も十分でなく、自分でも自信がなく、退職したそうです。
二児の出産を経て子育てが一段落し、二人とも小学校に入ったので仕事をしたいと思い、そう本腰を入れたわけではないそうですが、ハローワークインターネットを閲覧していたら、古巣の企業が経験者採用ということで人材募集をしていることを知り、連絡をしてみたそうです。
応募した結果、彼女は10年のブランクがあるのでということで、10年後輩と同じ賃金待遇で入社をしたそうですが、それでも待遇に不満はないそうです。彼女はこの10年間は大事な出産育児という仕事を専業主婦として行っていて、その会社の中の仕事には10年間関わっていないのだからと、評価としてはそれはそれでやむを得ないと受け止めていました。
でも筆者が思うに、これからはその育児の期間も形を変えた何らかの働き方を実現することができれば、10年間まるまるのブランクを評価されないということにはならない筈ですし、「多様な働き方」のスイッチの切り替えで、雇用企業からすれば人材の熟練度を維持して活用できるのですから、「複線乗り換え可能型」の人事制度・政策の一環としてより進化充実を期待したいところです。
採用する側としては、他業界他職種からの採用人材に比べれば、改めての会社の入社時教育等のコストがかなり少なくて済むわけですし 少子高齢化の中で人材確保の困難度が数の上でも増加する中、もう少し処遇を考えてもよいようにも思います。

一方で、個別に「再入社」を打診され、断った人材の話も聞くことができました。
お一人は、オーナー家の内紛に嫌気がさして退社した方で、もうお一方は、製品の品質管理に不正があると内部告発したにもかかわらず、何の体質も変わらず、「告発者探し」が始まったので、さっさと辞表を出した方でした。
お二人とも、優れた能力のある人材で、事情を飲み込んだ人材紹介会社のコンサルタントによって現在の勤務先に転職し、既にそこにおいて能力を発揮していらっしゃいました。異口同音におっしゃるには「企業体質が変わらず、自分が退職した理由の本質を理解せずに人材不足という企業の都合だけで戻って来いと言われても、応じるわけがないでしょ。」ということでした。

「人的資本経営」の重要性も問われる時代ですが、退職者をも自社の資産として捉えるべきと言っても、過去人材を真に「資産」として扱ってきたのかどうかが問われている時代の中で「使い捨てた人材」が戻ってくるはずもなく、流行と自分の都合だけで「アルムナイ採用」を喧伝しても、成功しないのは当然でしょう。
企業の採用戦略を立案する立場の方々は、もし「自社の卒業同窓生」を呼び戻して自社の戦力に役立てようとするのなら、過去社外に転じた個々の卒業同窓生の退職事由が表面上「自己都合」となっていても、その奥に隠された当時の様々な事情を推測した上で、アルムナイ採用の導入を検討することの必要性を感じていただきたいと強く思い知らされた、それぞれの人材との会話でした。

以上

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)