労働あ・ら・かると
正規・非正規という呼称
一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長 岸 健二
〇10月のこの欄に「職業=派遣社員という報道はなんとかならないものか」と寄稿したところ、「呼称について、正規・非正規という言い方もなんとかならないものか」と、何人かの読者の方からご意見をいただきました。
〇確かに「多様な働き方/多様な労働力活用」の組み合わせによる労務管理の時代に、ある雇用形態を「正規」「正社員」とし、それ以外を「非」と括る言い方・発想は適切ではないとの指摘は、至極もっともなことだと思います。
〇中には「非正規は英語にするとアブノーマルabnormal とも言えるので、差別的ではないか」という方もいらっしゃいました。ネイティブな英語話者に教えていただかなければいけませんが、筆者はふだん止むを得ず使うときには「standard employment/non-standard employment」としています。しかしこれとて、「標準/基準」となる雇用と「標準から外れた」雇用という印象をぬぐえず、使いながら違和感が漂うことは否めません。
〇職業紹介の現場では「正社員募集」という表記が、多く使われています。求人広告だけではなく、公共職業安定所(ハローワーク)に掲示されていることもよく見かけます。正社員について定義するとすれば、一般的には「直接雇用、無期雇用、フルタイム」ということなのでしょうが、派遣業界の方から見れば、今の派遣就業スタッフの多くは「(派遣元との)直接雇用、無期雇用、フルタイム」を満たしているので「非正規」と呼ばれることに抵抗感が残るのかもしれません。
〇一方で、転職先、再就職先を探す立場からすれば、「正社員」というキーワードで求人を検索した先に、派遣型就労求人が表示されたりすれば、「それは違うだろう。」と思われるのも、無理からぬこととも思います。
〇「正」の反対語対語を思い浮かべると、「正誤」「正否」をはじめとして「正」以外に対してとても否定的な文字が浮かびます。そのため「正」以外の立場の人材からすれば、その働き方に対する理解や共感が感じられない呼称だと受け止める人がいる可能性に、思いを馳せることが必要だと思います。
〇働き方改革の中で「勤務地限定正社員」「職務限定正社員」「短時間正社員」とぃった呼称も聞かれるようになりましたので、「正社員」という言い方による募集・採用選考の中での思い違いなどの混乱をより減らすことが、今後ますます必要になってくるのではないかと思う次第です。
〇併せて、「契約社員」という呼称も誤解を招きかねない呼び方であるとも指摘したいと思います。
〇屁理屈っぽく聞こえるかもしれませんが、「いわゆる正社員」であっても、「雇用『契約』を結んだ労働者」なわけですから、契約社員であるとの理屈もあり得るのではと思ったりもします。
〇多くの企業の就業規則などで、職員、パート職員、契約社員、嘱託社員といった呼称で勤務形態を区別して定め、判りやすい労務管理を図ることに異論があるわけではありません。
〇しかし、勤務地無限定、職種の変更範囲無限定、雇用契約期間無期のメンバーシップ型雇用が「正」で、それ以外を「非」という発想から脱却できる、多様な雇用形態、さらに雇用以外の人材活用や業務運営を組み合わせた新時代の労務管理にふさわしい呼称を一緒に考え出しませんか。
〇以上
〇(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)