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連合・芳野会長 強気の賃上げ要請、発言相次ぐ ~2025春闘、5~6%の賃上げ要求基準を決める~
労働評論家・産経新聞元論説委員・日本労働ペンクラブ元代表 飯田 康夫
〇あらゆる部門、組織のトップリーダーの発言は、信念に基づいたものであるほど、一言一句が心に響き、重く感じられるものだ。その発言は、トップリーダーが責任を果たすという重い任務を負うものだ。良識、見識のある言葉は、説得力もあり、組織の活力も倍加しようというもの。それが朝令暮改やいつも前言翻しであれば、その言葉の軽重が問われる。それは政治の社会でも、企業経営の場でも同じこと。労働界のトップリーダーの発言もまた同様だ。トップリーダーには時に気力、胆力が求められる。全ては、その人の度量なり、器の大きさが問われる所以である。
〇労働界の中央組織「連合」(組織人員700万人)のトップリーダーは芳野友子会長である。その彼女が、このところ官邸での政労使会談で意欲的な賃上げ要請を呼び掛け、林芳正内閣官房長官への2025年度予算編成で7項目にわたる働く者の側に立った要請を行い、全国知事会に対しては、持続的な賃上げ環境の整備に向けた要請を展開、あるいは連合の組織内の重要な会合(中央委員会)で、継続的な賃上げへ、2025春闘では“巡行軌道”に乗せる段取りが重要だと強調するなど意欲的な発言が相次ぎ、注目を集めている。
〇その一つ、2025春闘に向け、連合が逸早く賃上げ要求基準を決めた11月28日の中央委員会では、全体では「5%以上」、中小企業の労組は格差是正分1%を加えた「6%以上、1万8,000円以上」の賃上げを求める闘争方針を決め、その場で芳野会長は、熱く語りかけた。「2025春闘では、賃金も経済も、物価も安定した“巡行軌道”に乗せる努力が求められる。同時に、しっかりと脱デフレを目指すことが政労使の責任だ」などと語っている。その中で、「2024春闘では5.3%という33年振りの高い賃上げを実現したが、一般労働者の収入増は3%台で、物価との兼ね合いでみると、実質賃金は、プラス、マイナスを繰り返し、勤労者世帯に、収入増という期待は消し飛んだ」とも訴え、実質賃金が安定的にプラスで推移していくことの重要性を指摘した。
〇2025春闘方針を決めた連合の中央委員会の席上での芳野友子会長の発言は、強気の賃上げ実現に期待を込めた内容となった。それは「はたらく者全員そろって豊かにならないと国は決して繁栄しないということを、労組だからこそ肝に銘じなければならない」と前置きし、「2025春闘の肝は、賃金も経済も物価も安定した巡行軌道に乗せることだ。連合は一丸となって、賃上げを取りに行く決意を連合700万人、心合わせをしたい」と語っている。
〇加えて「2025春闘は、未来づくり春闘の中で、確実に賃上げを実現してきた流れを確固たるものとすることができるか否かの分水嶺にある。2025春闘では『巡行軌道に乗せる』と謳っている。(これまで)賃金は上がらず、物やサービスの値段も低いままの世の中が当たり前と思われてきたが、その間、世界は賃金も物価も上昇する経済を実現、気付くと日本だけが低空飛行を続けてしまっている。海外からみると“安い日本”と映り、外国からの旅行者は爆発的に増加、とてつもない金額を消費していく様子が報じられている」と述べ、「ここ数年、確実に賃上げが続いていることは、低空飛行から抜け出すチャンスであり、それを巡行軌道に乗せることで、再び豊かさを実感できる社会へと動き出すことにつながるものと確信している」と実績を語り、「その動きは一部のものであってはならない。全員そろって豊かにならないと、国は繁栄しないーこのことを胸に刻んで取り組みたい。このことは『みんなで作ろう!賃上げが当たり前の社会』というスローガンに込めた」と強調する。
〇政労使会談で“賃上げが当たり前になる社会を目指したい”とアピール
〇次に注目したいのは、連合が2025春闘方針を決めた11月28日より2日前の11月26日、首相官邸で開かれた「政労使の意見交換」だ。芳野会長も出席、「賃上げの基盤整備と地域別最低賃金の中期目標について」意見表明を行っている。政労使が一堂に会した場で芳野会長は、何を語ったというのか。
〇「2024春闘では33年振りの5%台の賃上げが実現したが、生活が向上したと実感している人は少数にとどまり、個人消費は低迷している。物価高が家計を圧迫していることに加え、中小企業や価格転嫁・適正取引が進んでいない産業などで働く多くの仲間に、この流れが十分に波及していないことも要因の一つだ。2025年は、四半世紀に及ぶ慢性デフレに終止符を打ち、動き始めた賃金、経済、物価を安定した巡行軌道に乗せなければならない。政労使が力を合わせ、すべての働く人の持続的な生活向上を図り、新たなステージをわが国に定着させることを目指す必要がある」と指摘。「この会議などを通じ、『賃金も物価も上がらない』というノルムを変え、生活向上が実感できる、賃上げが当たり前になる社会をめざしていくという強いメッセージを発していきたい」と語り、次いで、政府に対して労務費転嫁指針の周知徹底を始め、6項目の賃上げに向けた基盤整備を求めた。
〇それは、次のような内容だ。
〇① 労務費転嫁指針の周知徹底と公的分野を含む適切な価格転嫁・適正取引の促進。
〇② パートナーシップ構築宣言の実効性とインセンティブ付与、賃上げした中小企業への支援策の強化。
〇③ 賃上げ率の低い業種(運輸、宿泊、飲食サービス、医療・介護、福祉など)での政策対応の強化。
〇④ 賃上げと適正な価格転嫁の機運を醸成する地方版政労使会議の効果的な実施。
〇⑤ 物価や賃金が継続的に上昇する新たな時代に対応した下請法等の改正。
〇⑥ 物価や為替レートの安定を含めた適切なマクロの経済社会運営。
〇3つ目は、11月15日林内閣官房長官を官邸に訪ね、2025年度予算案編成に向け要請。その骨子は、低所得者の負担軽減等に向け税制面での対応や医療・福祉の現場を担う労働者の処遇改善など、働く者の立場に立った予算編成案作成で要請している。
〇4つ目は、11月19日全国知事会に対し、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針に基づいて、適切に対応することや全都道府県における地方版政労使会議の開催に当たっては知事を含む政労使の代表者が参加すること」などの要請行動を展開。
〇これら以外にも、芳野会長は10月25日開かれた「2024連合ジェンダー平等推進中央集会」で男女平等参画の推進、ジェンダー平等推進を各組織のトップリーダ―が強いリーダーシップを発揮し、一丸となって取り組みを加速させようと激を飛ばし、10月31日首相官邸で開かれた石破首相が議長を務める「GX実行会議」でも意見表明(詳細は官邸ホームページ参照)している。
〇なお、2025春闘のスケジュールに関しては、12月4日の「2025春闘 格差是正フォーラム」を皮切りに、年明けの2月6日「闘争開始宣言中央集会」、同月12~13の両日「全国一斉労働相談ホットライン」の展開、同月27日「連合全国一斉アクション中央集会」、3月6日「国際女性デー中央集会」などを経て、3月12日(水)を中心とした集中回答日を設定している。
〇果たして、2025春闘がどのような展開をみせるのか。経営側の経団連も新春1月中旬過ぎには、経営側の春闘指針となる「経営労働政策特別委員会報告」(経労委報告)を公表、その中で、「賃上げ定着は企業の責務」だと強調する内容が盛り込まれる予定だ。その後、同1月後半の労使トップ会談での発言が注目され、2025春闘が本格的な展開をみせる段取りとなる。
〇労使のトップリーダーの発言は、その責務(賃金、経済、物価の好循環達成)をどう果たすというのか。2024春闘を上回り、物価上昇率に負けない、実質賃金が常にプラスに転じる“春答”という名の回答書が実現するのか、発言内容と回答書に注目が集まる。