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採用は人材定着の起点と心得よう

社会保険労務士 川越雄一

 

人手不足に悩む会社は多いと思います。しかし、業種・業態・規模等に関係なく必要な人手を確保できている会社もあります。では、その差は何かといえば、採用した人材の「定着」の良し悪しではないでしょうか。定着してくれればそう頻繁に採用する必要もないわけです。そのためには、採用をゴールではなく人材定着の起点と心得ることが肝要です。

 

1.採用はできたものの
ハローワークに求人を出してもサッパリ、問い合わせすらない会社も多いと思います。そこで、専門家にコンサルティングを依頼したり、人材紹介会社に依頼し紹介料を払い採用できたものの……。
●求人を出してもサッパリ
中小企業の求人といえばハローワークが定番ですが、サッパリ応募がなければ「やっぱりハローワークではダメか」と思いたくなります。そこで、採用コンサルタントなる専門家に依頼し求人票のアドバイスを受け、数十万円の掲載料を払って求人広告へ走ります。これで求人票も多少は見栄えも良くなり、いくらかは応募者もありますが……。
●数百万円の紹介料を払い採用するも
人材紹介会社とは、厚生労働大臣から許可を受けた「有料職業紹介所」のことですが、 主に、人材を採用したい会社と転職希望者を仲介し、雇用契約成立までをサポートします。紹介料は年収の30%程が多いかと思います。中小企業では普段知り合うことのない高度人材を採用できるといわれていますが……。
●鳴かず飛ばずで早期離職
多額の紹介料を払ってでも何とか採用できるとホッとしてしまいます。中小企業が数百万円も費用をかけるということは、当然ながら即戦力として定着してくれることを期待してのことです。しかし、そうはうまくいかず、鳴かず飛ばずで、いつの間にか早期離職ということも少なくありません。「あの数百万円は何だったのか……」

2.人材を定着させるのは会社次第
ハローワークや人材紹介会社の業務は基本的に紹介までです。後者の場合はある程度、求人会社と求職者の希望をすり合わせするでしょうが、それでも採用後いかに定着させるかは会社次第です。
●人材紹介会社の業務は採用まで
会社は人材紹介会社に求める人材像などを伝え、人材紹介会社は求職者と採用を希望する会社とのマッチング(結びつけ)を行います。そして、条件にマッチする候補者を選定し、面談スケジュールの調整など内定までの手続きを代行します。サービスの度合いは違うにしても紹介という点ではハローワークも同じです。どちらにしても業務の範囲は採用までです。
●入社前と入社後のギャップ
人材紹介会社は採用先を紹介する際に会社情報等を詳しく説明するはずです。もちろん、求職者自身も会社ホームページを見たりするかもしれません。しかし、いずれも外部からの、どちらかといえば表向きの情報です。入社してしまうと良くも悪くも現実を目の当たりにします。ここに大きなギャップが生じやすいのです。
●採用はゴールではなく起点
当たり前といえば当たり前ですが、採用は起点であり、ゴール(目的)は採用できた人材をコツコツと定着させ戦力化することです。しかし、人手不足の会社に限って採用がゴールのようになっており、年がら年中採用活動ということも珍しくありません。人材紹介会社にとっては良いお客さんでしょうが、会社経営上は大きなマイナスです。

3.人材定着に向けた3つの取り組み
人材定着に必ず成功する方法はありませんが、失敗を避ける方法はあります。今のような時代でも人手不足に無縁の会社は、このような失敗しない方法にコツコツと取り組んでいます。
●今いる従業員を大切にする
これは鉄則です。大切にするというのは、単に甘やかすのではなく法律やお互いの約束を守り合うことです。当然ですが従業員個々の人格を尊重します。そうしますと、職場内にお互いを助け合う雰囲気が醸成されます。その前提として、今いる従業員が会社から大切にされていると実感することが必要不可欠なのです。
●業務の内容と労働条件を明確にしておく
雇用関係は契約ですから、業務の内容と労働条件を明確にしておきます。雇用関係において従業員の責務は何時から何時まで、どのような業務を行うか、会社の責務は提供された労務に対価としての賃金を払うことです。このようなお互いの責務を書面にしたものが雇用契約書(労働条件通知書)ですが、これを採用日までにはキチンと取り交わします。
●3年間のキャリアプランを示す
キャリアプランとは、将来の仕事や働き方の理想を明確にして、その計画を立てることです。5年後、10年後も重要ですが、まずは3年後くらいまでの計画を示します。試用期間中、1年後、3年後の到達目標と、それ対する研修メニュー、取得を奨励する資格・検定などを具体的に示します。これにより、将来の見通しができますから安心して働けます。

人手不足の今、あの手この手を使って採用にこぎつけたいという思いは理解できます。しかし、採用は人材定着の起点と捉えれば、まずは今いる従業員を大切にするなど、雇用環境を整えることが大切ではないでしょうか。