労働あ・ら・かると
試用期間は「PDCA」を意識しよう
社会保険労務士 川越雄一
〇多くの会社では採用から一定期間の試用期間を設けています。しかし、せっかく制度として試用期間があるのに、何となく漫然と過ぎやすく形式的になっていることも少なくありません。そこで、試用期間を実のあるものにするために意識したいのが、マネジメントサイクルである「PDCA」です。試用期間をPlan(計画)、Do(実行)、Check(確認)、Action(改善)で回します。
1.【P】採用時に試用期間における育成計画を示す
〇試用期間は従業員としての適性を見極める期間であるとともに、会社の求める基準に到達させる育成期間でもあります。ですから、まずは試用期間満了までに到達してほしいことを盛り込んだ育成計画を示します。
●試用期間を具体的に伝える
〇試用期間は大体3カ月から6カ月程度が多いと思います。しかし、意外にもこの期間がお互いに認識できていない場合があります。ですから、試用期間は求人票に記載することはもちろん、面接時は当然提示します。また、雇用契約書にも具体的に「〇年〇月〇日から〇年〇月〇日まで」というように盛り込みます。こうしてお互いの認識を一致させておきます。
●到達基準を具体的に示す
〇試用期間満了時点にどこまで出来ていれば正社員登用できるかを、文字や数値で具体的に示します。これについては、就業規則に正社員登用基準が示されていると思いますが多くは抽象的な記載です。ですから、これをより具体的にするか、職種により求める基準が違うのであれば、職種別に正社員登用基準を作成しても良いかと思います。
●育成計画は「いつ」「だれが」「何を」「どのように」
〇試用期間を細分化した育成計画を作成します。例えば、タテ軸に採用日から1カ月目、2カ月目……、ヨコ軸に、だれが(指導者)、何を(業務内容等)、どのように(教え方)というような表を作ると計画が作りやすいと思います。期間については1カ月を1週間ごとに区切るとさらに具体的になります。
2.【D】育成計画に基づき育てる
〇試用期間を育成期間と捉え、会社と新入社員で共有した計画に基づき育成を行います。ポイントは、「やってみせる」、「言って聞かせる」、「させてみせ、ほめる」です。従業員としての適性を見極めるのは、これらをコツコツとやった後のことです。
●やってみせる
〇まずは指導者が手本となって作業をやってみせます。新入社員は分からないことが分からない状態ですから、何をどうしたら良いのかイメージすらわきません。ですから、「まずは私がやってみますね。この作業はこの手順でこのようにやります。ここは、間違いやすいところですから注意してください。」というようにお手本を見せます。
●言って聞かせる
〇担当してもらう業務の意義や重要性、全体における位置などを伝えます。最初はどうしても補助的な業務でしょうが、「〇〇さんがこの業務をこなしてくれるから、□□課長は基幹業務に集中できますし、それによってチームとして成果をあげることができます。」というように担当業務が他の部門(人)と前後左右でつながっていることを伝えます。
●させてみせ、ほめる
〇業務を実際にさせてみせます。最初からベテランのレベルを求めると自信を喪失しますから小さな成功体験を積ませます。上手くできたら「よくできました」、問題があればその都度「大体できていますが、ここをもう少し改善しましょう」というようにその場で修正します。また、「だいぶ慣れてきましたね」と成長を認めることも必要です。
3.【C・A】育成計画に基づき評価・改善を促す
〇試用期間満了時はもちろんですが、その途中でもできるだけ評価・改善を促す機会を設けます。試用期間は会社だけでなく、新入社員にとっても働き続けるかどうかを見極める期間でもあるわけですから、会社の人を大切に育てる姿勢は重要です。
●到達目標を基に試用期間を確認・評価する
〇試用期間開始時に示した到達目標について、できている「コト」と、できていない「コト」を一つずつ確認・評価します。そのため、当初示す到達目標は、試用期間満了時に確認・評価しやすいようなものにしておくことが必要です。これが大雑把だと確認・評価に説得力がありません。多くの人は自分の能力を普通だと思っているからです。
●改善すべき事項は「コト」で伝える
〇到達目標を基に試用期間中の仕事ぶり等を確認・評価し、改善すべき事項があれば「コト」で伝えます。例えば、データ入力の精度が低い「コト」、報・連・相ができていない「コト」、遅刻が多い「コト」といった感じです。本人の人格を否定することなく、改善事項を「コト」で伝えればパワハラのリスクも低くなります。
●試用期間を延長する場合
〇試用期間満了時に正社員登用が難しい場合は、試用期間を延長して様子を見ることが考えられます。この場合も、試用期間満了直前に延長を伝えるのではなく、試用期間開始時に、このような場合は延長する旨を伝えておきます。もちろん、どのような場合に延長するかの基準を就業規則に定めておくことが必要です。
〇今のような人手不足時代は、試用期間で従業員としての適性を見極めるというより、従業員として雇用し続けられるように育成する視点が従来にも増して重要です。その際に意識したいのが、マネジメントサイクルである「PDCA」です。