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今月のテーマ(2012年03月 その2)2012春闘の答案に、合格点は付けられるのか

来週の3月14日(水)には、2012春闘のヤマ場を迎える。いま、最後の詰めの段階にあるが、今回の労使交渉で共通して見られたのが、ともに厳しい経営環境下にあることを互いに自覚し、認め合った上での交渉が展開されたことだ。

昨年末から今年はじめにかけて、労使は互いに労使交渉・春闘への取り組み姿勢(春の闘争方針=春闘)を発表し、ここ1か月強の間、互いの主張をぶつけ合った(春の討議=春討)。その結果が来週の14日、主要企業から労働側に回答(春の回答=春答)の形(答案)で結論が出る。

厳しかった交渉の結果が、果たしてどのような形で回答(以下、「答案」)に反映されるのか。この1年を振り返ってみると、100年、1,000年に1度あるかどうか、未曾有の東日本大震災に始まり、超円高基調の定着で、輸出に望みをかける日本経済には大きな痛手となった。その間も、EU発の金融危機は、なお予断を許さず、いつどのような形で日本経済を揺さぶるのか、働く側への影響も計り知れない。

その意味で、2012年春闘での答案内容が、単に「賃金体系・賃金カーブの維持」とか、一時金5か月、あるいは5.5か月など、単語や数字の羅列であってはならないと考える。ここは、直面する諸課題に労使は、どう対応し、協力し合えるところは何かなど、ある程度の見通しを見込んだ方向付けが答案に書き込まれて然るべきだ。果たして、労使交渉の結果、歴史の評価に耐え得る答案ができるのか、合格点の付けられる内容となるか注視していきたい。

では、合格点の取れる春闘の答案内容とは何か。3つの視点とプラスαとしての人材(財)育成の視点から眺めてみたい。

第1は、直面する課題への対応姿勢である。労働側が求めるすべての労働者に1%の適正配分など賃金改善(定昇・賃金体系・賃金カーブ維持を含む)、一時金要求に対して、経営側はどのような姿勢を示すのか。厳しい経営環境下、定昇の凍結や見直しを主張し、ベアは論外、賃金改善を実施しない企業が大多数を占めるであろうとする経営側だが、現実は、定昇(賃金体系、賃金カーブ維持)の実施をはじめ、ベア・賃金引き上げを実施する企業が結構多くなりそうな気配である。

それはなぜか。企業側がその理由として挙げる第1位が、「労働力の確保・定着」だ(帝国データバンクの1万社強の調べ・2012年度賃金動向調査)。人材確保を優先する企業姿勢が読み取れる。次いで、経営努力の結果としての「業績拡大・収益の改善」が続く。中には「終身雇用を旨とし、社員の安定した生活基盤を確保するために、ベア、一時金の改善は必要不可欠だ」(産業用電機機器卸売)との声も聞かれる。

一方、賃金改善を実施しない理由では、「業績の低迷」と「同業他社の賃金動向」が挙がっている。他社の動向を見てからという様子見の態度だ。

同時に、雇用問題は極めて重要視しなければならないテーマである。雇用の維持・安定と雇用の創出に労使は、どれだけ汗をかいたのか。インターバル休息の導入などワークライフバランスの実現や65歳あるいは70歳へ向けた雇用の確保策・定年延長問題、格差の象徴である非正規労働者の処遇改善、男女平等などの諸課題に、安心の度合いを込めた方向付けが答案の中に盛り込めることができたか。労使協議・団交を重ねるということは、企業のあるべき姿を常に問い、働く人材に向け、労使が熱いメッセージを発信することにある。

第2は、中長期の視点から、東日本大震災の復興、再生へのグランドデザインを、それぞれの労使が、あるいは産業労使が知恵を出し合い、どう描いたのか。大震災への対応は、ここ1~2年で片付くものではない。着実な成果をどう積み上げていくのかの道筋を国民の前に示すべき責務が労使にあることを忘れてはならない。

同時に、長年苦しんできたデフレからの脱却を労使は、どう乗り切ろうとするのか。ここは正念場である。まさに胸襟を開き、デフレ脱却のシナリオづくりを、この労使交渉で熱く討議したであろうから、将来像を展望し、その方向付けを明かして協力を求めるべきであろう。

第3は、EU発の金融危機を契機に、経営環境は不透明の度を増し、世界経済の牽引力だった発展途上国にも、先行き陰りが見え始める中、日本の特性を発揮し、持てる技術を駆使した日本発の世界経済の発展・救済策のモデル事例―例えば、環境技術や高度な医療技術などーを国際社会にアピールするだけの努力が、労使討議の中で議論されたか。明日を展望する、約束する、希望を抱かせる内容を内外に明らかにすることで、日本全体に元気印が蘇ってくるのではなかろうか。

これこそ厳しい環境の中で労使が熱い討議を重ねた2012春闘での労使に課された重い責務だったはずである。

果たして答案に合格点は付けられるのか。

プラスαとして見逃せないのが、労使がともに掲げた“人材投資・人材育成”のテーマである。グローバル経済競争に打ち勝つには、いかに人材を確保し、育てるかにある。その点では労使共通の課題なのだ。

日本の資産は、人材(財)力にある。では、グローバル経済に対応できる人材づくりのカギは、どこにあるのか。労働側は、人材づくりには賃金改善こそ優先すべきだとする。経営側は、企業が存続し、発展し続けてこそ、将来の展望が拓け、処遇も改善されると主張する。人材への投資が先か、企業の存立が先か、労使の論戦は平行線のままだ。

重要な視点は、将来を見据えた企業の姿と働く者の生活の安心、雇用の安定をどう構築するのか。労使がともに掲げる人材が育つということは、グローバル経済に立ち向かえることのできる人材であり、そこには、将来への安心社会が約束されることが基礎になる。

いま、国民の間には、将来の生活不安に対する関心の高まりがある。これをどう拭い去るのか。2012春闘は、この課題解決に向けたグランドデザインづくりが労使に求められたのだ。改めて、14日以降の春闘回答(答案)をしっかり読みほぐしたいものである。

【飯田康夫労働ジャーナリスト日本労働ペンクラブ前代表】