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労働あ・ら・かると

今月のテーマ(2012年04月)いじめ、嫌がらせをなくし、快適職場づくりを

子どもの世界に限らず、常識・良識を兼ね備えているはずの大人の世界・職場にも“いじめ・嫌がらせ”といった陰湿な病巣が蔓延しているという。それは働く人の尊厳や人格を侵害する許されない行為である。同時に、職場が病んでいるとしか考えられない実態に驚きだ。これでは、生産性の向上も、社員のモラルも低下し、企業経営の面でも大きな損失を招くことにつながる。

政府も「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」を設け、職場のパワーハラスメント(パワハラ)予防・解決に向けた提言をとりまとめたばかりである。だが、現実に、職場では毎日のようにいじめ・嫌がらせが蔓延っているようだ。それは、相手を貶める、口汚く罵る、あるいは暴力を振るう、名誉毀損や仲間外し、誰がみても無理な業務の強制、私的なことに過度に立ち入るなど、様々ないじめ、嫌がらせである。

これらは、職務上の地位や人間関係などでの優位性をバックに、仕事上適正な業務の範疇を超えて、相手方の心身に苦痛を与える、職場の雰囲気を悪化させるなどの行為であって、社会常識を逸脱した悪質ないじめであることをまず、経営トップ層はじめ、中間管理者層がはっきりと認識することである。

その上で、いじめ・嫌がらせ、パワハラの予防・解決に向けた提言を職場に徹底することだ。これらの取り組みには、労組の存在と対応姿勢が大事である。職場には、陰に陽に、知ってか知らずか、あるいは意識して、いじめ・嫌がらせ行為が蔓延っていると見た方がよさそうなケースがみられる。

いじめ・嫌がらせ、パワハラをなくすには、トップ自ら範を示し、明確なメッセージを発信することが重要だ。いじめ・嫌がらせは許されない行為であることを、職場の隅々まで、行きわたらせるべきなのだ。
ただ、ここで注意しなければならないのが、いじめ・嫌がらせなのか、仕事上の指導なのか、線引きが容易でないことだ。提言でも触れているように、上司には、人材を育てていく役割があり、必要な指導を適正に行うことまで、ためらってはならないことである。

怒鳴るだけ、怒るだけではなく、教えを込めて叱ることを身につけたい。叱られる立場、叱る立場を考えると、叱る方が何かときついのだ。育ってほしいからトップ層や上司は、叱るのだ。失敗は人生の勲章とも言われる。失敗から、多くのことを学び、教訓として活かすことで、人間は成長し、器も大きくなるというもの。生涯、叱られたことのない人生なんて、つまらない。

問題は、叱り方である。それは、それぞれの企業文化に根付いたものがある。叱ることで、目覚め、一回り以上に育つことがある。確かに、怒る、怒鳴りあうのは、互いに不信感だけが醸成され、心身ともに疲れるだけであることを肝に銘じたい。

ところで、いじめ・嫌がらせ、パワハラの具体的な事例を労災事案で認定されたケースで見るとしよう。そこには、正常な業務の遂行というより、あまりにも世間の常識、良識から逸脱した職場でのいじめの実態が浮かび上がってくる。

その1。某業界の店長だったAさんは、月100時間を超す恒常的な時間外・深夜労働に加え、会社倒産の危機がささやかれる中で、それを乗り切るための新店舗オープンがAさんの双肩にのしかかるも、会社の支援が得られない状況にあった。しかも、厳しいノルマが強制され、上司や役員クラスからの感情的ないじめ・パワハラ、叱責が繰り返され、心身の疲労がピークに達したと想定される中、精神障害を発症し、某所で自殺した。何とも痛ましい事案である。

その2。会社で経理事務に従事していたBさんは、複数の経営幹部から言葉汚く、誹謗・中傷、説教や叱責、時には卑わいな言辞など嫌がらせを受け、うつ病を発症、業務上の事由によるとして労災認定された。例えば、社会的に評価が確立している、ある資格を取得したところ、社長らから「卑しい職業」などと罵られ(後日、社長は言い過ぎであったことを認めている)、「経理は、他の社員との接触は控えろ」、「“ちんぽ”を握ってでも仕事をとってこい」、「女性社員ならソープへ行って、自分の身体を売ってこい」など、あまりにも卑わいな言動・パワハラ発言に翻弄されつづけた。

その3。某部品販売店の店員のCさんは、入社1か月後あたりから店長や先輩から「仕事の覚えが悪い」などを理由に、日常的に叱責、叩く、小突く、拳で殴るなどの暴行を受け、「胸部打撲」、「頸部打撲」などの負傷を負った。暴力行為が連続する中で、店長や先輩らによる刑事事件が発生、傷害罪で有罪の判決も出ている。そこには、仕事の指導の範疇を超えた暴力行為が日常茶飯事繰り返されてきた事実が判明している。

その4。某社の販売企画担当だったDさんは、突然、ある営業所長に配置換えになった。しかも、上司より高い売上目標を課され、目標の達成が困難になると、上司から毎日のように叱責や嫌みを、時には顧客の前でも厳しく叱責されつづけ、家族の聞き取りではDさんは上司に恐怖感を抱いていたという。Dさんが就任した営業所長は、過去1年間に5人が退職するほどの厳しい販売拠点で、仕事、ノルマに耐え切れず、Dさんはある日、自宅で縊死した。販売激戦区での痛ましい事案である。

その5。某社で新商品開発担当のEさんは、給与の減額と社長や上司からいじめ・暴言、パワハラを受け、「自律神経失調症、うつ病」を発症した。給与の残額支給を社長に求めたところ、「半額でも、ありがたいと思え」、「あなたの顔をみるのも不愉快だ」、「業績が悪いのでリストラしたい」など、罵声とパワハラ、会社からの追い出しを受け、ノイローゼ気味となり、体調を崩した。

いじめ・嫌がらせ、パワハラの事例を取り上げれば切りがない。
ここにみてきたように、職場が病んでいるとしか言いようのない事案、社長や上司ら優位な立場にある者からのいじめ・嫌がらせが後を絶たない。
果たして、これで職場の業務がスムースに運営されていけるのだろうか。快適職場づくりが今日的な課題だが、どうやら不快な職場づくりの典型を見せられる思いがする。

人間の尊厳、労働の尊厳を優先し、他人の人格を大切にする姿勢が職場に漲ること、快適職場の第一歩である爽やかなあいさつが飛び交う職場、コミュニケーションが行き届いた職場、伸び伸びと仕事ができる職場、明るく健康な職場づくりで、厳しい社会を乗り切ってほしいものである。

【飯田康夫労働ジャーナリスト日本労働ペンクラブ前代表】