労働あ・ら・かると
今月のテーマ(2012年10月)ダイバーシティ・マネジメントを考える
日本でダイバーシティ・マネジメントという言葉が聞かれるようになってから久しいが、1970年前後から人種や民族とのかかわりからアメリカで言われ始めたとされている。
ダイバーシティ(Diversity)は「多様性」と訳されているが、ある識者の指摘では「Diversity&Inclusion」を省略したもので、意味するところは「多様性の受容」であるとしている。まさにその通りでわかりやすい。各人が互いに多様性を受け入れて、活力ある組織や生産性の向上を実現させようというマネジメントアプローチである。
経済はグローバル化し、企業の社会的責任もあり、組織で働く人も多様化している。多様な人材との関係では、主な内容として次の点が考えられる。
人種、民族、宗教、国籍などのほか属性としては性別、年齢、学歴。働く人としては、高齢者、中年者、若年者、障害者、健常者等。雇用形態としては、正規雇用、非正規雇用、勤務形態としてはフルタイマー(通常勤務者)、短時間勤務者、在宅勤務者、育児・介護休業の勤務者等々いろいろな人と一緒に仕事をすることになる。このような多様な人材をどのようにマネジメントして組織や個人が両立して企業の目指すべき目標を達成するかということになる。
従来の日本的雇用や処遇制度等から考えるとダイバーシティの実現は難しいように感じるし、実際にも難しい点もある。最近はいろいろ変わってきているが、バブルがはじけてから2~3年後に円高、製造業の海外移転、経済の低迷などで閉塞感が強く、高度成長期に機能した日本的経営の先行きに不安感が強く漂っていた。
我が国の雇用システムは、学卒入社が主流で、雇用はほとんど日本人、男性は仕事中心、女性は家庭重視、正規社員で勤務時間の多くはフルタイムだった。しかも同じような社内教育を受けて育った社員の発想が皆似ていた。
一部の経営者や学者から日本の企業は、いわゆる、金太郎飴的人材の集まりで、変化の激しい時代には対応できず、今後は多様な人材の厳しい議論の中で新たな方向性が見出すことが大事であるとの意見も出ていた。
そのような時代的背景を受けて日経連(現日本経団連)は、1995年5月に1年余りをかけて検討してきたプロジェクト報告「新時代の日本的経営」を発表し、経営環境の変化と従業員の働く意識の多様化を踏まえて、経営の方向性を提示した。今後の雇用システムについては「長期蓄積能力活用型」、「高度専門能力活用型」「雇用柔軟型」の各グループの人材を組み合わせた「雇用ポートフォリオ」を提案した。
各グループは固定したものではなく、企業と従業員の意思でグループ間の移動もあるという考え方である。それとの兼ね合いで採用・勤務形態の多様化、処遇制度の均衡化や公正・透明・納得性のある処遇制度への見直しなどを盛り込んでいる。
報告書ではダイバーシティという言葉は使ってはいないが、人材の多様化の活用を通して従来型の企業経営の在り方、従業員意識、処遇制度等を時代の変化を踏まえて見直していく必要があると提案した。
アメリカの場合は国の成り立ちから人種や民族の多様な人材をいかに効果的に活用をするかという視点からスタートしてもろもろの対応をしてきたダイバーシティ・マネジメントの先進国である。アメリカの人事・賃金制度が職務をベースにした処遇制度であったことも多様な人材活用をしやすくした大きなポイントであったといえよう。
振り返って、日本のダイバーシティの最近の実情を見てみよう。
日本の場合は日本の特殊性から欧米とは少し異なる動きになっている。日本にも以前からこれらの問題について研究してきた人や実施をしてきた会社もあるが、この考え方が広まった一つのきっかけは2002年に日経連(現日本経団連)が「ダイバーシティ・ワークルール研究会報告」を出してからではないかと思われる。
報告書に盛られたダイバーシティの定義は「多様な人材を生かす戦略」とされている。
日本で検討されているダイバーシティも最近いろいろな観点から議論し、すでに実施されているものもあるが、最近では、男女共同参画社会の実現をベースに、法的な整備をしつつ、少子高齢社会の進展を背景に、女性や高齢者の更なる有効活用に関する諸制度の対応と実施にあるように思われる。
そのことは組織や個人に大きなインパクトを与え、国全体の活性化につながっている点は好ましいことであるが、これからは経済のグローバル化が一層進展し、国内外で外国人労働者と協力体制のもとで企業・個人の満足度を高めた仕事の仕方やそれに相応しい処遇制度が求められようになる。このようにダイバーシティ・マネジメントの問題は、各国のニーズや緊急性により当然力点の置きどころは異なるが、我が国でも、グローバル化が進んでいる今日、もっと幅の広い視点で検討し、制度の拡充化を図ることになるであろう。
ダイバーシティの対象範囲が広くなると制度が複雑になるなどの問題もあるが、多様な人材のコミュニケーションを通して、経営改革や新製品・商品・サービスを生み出すチャンスでもあるとの前向きな発想と対応が必要だ。
経営のグローバル化や優秀な人材の確保・活用、企業の社会的責任等がこれからも求められるため、好むと好まざるとにかかわらず人材の多様化はさらに進んでいくであろう。それをいかに有効に活用するかは重要な経営戦略でもある。この考え方を社内に浸透させるためには経営トップの姿勢と従業員の意識改革、実現のための体制作り、特に人材の多様化に相応しい処遇制度でなければならない。我が国の人事・賃金等の処遇制度は職務・能力・成果反映型に変わりつつあるが、依然として年功的な色彩を残している企業も少なくない。ダイバーシティ・マネジメントが所期の成果を上げるためには、処遇制度も大変重要なファクターである。多様な人材が意欲を高めて働いてくれる公正・透明・納得性の高い処遇制度への見直しが強く求められる。
【MMC総研代表小柳勝二郎】