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今月のテーマ(2012年11月 その3)「国外にわたる人材紹介」と2つの課題 ~グローバル時代の人材移動~

「グローバル化」の波は、職業紹介業界にも例外なく押し寄せ、原則日本国内についての取扱いについて許可される民間の職業紹介業においても、「国外にわたる職業紹介」についての届出がこの間増加してきました。

増加した流れの一つには、概ね10年前の頃ですが、中高年の技術指導技能を活かした再就職先が、日本の製造業の海外移転や海外企業へのOEM生産委託などと連動した形で国外となったことに起因して、再就職支援業界において「就職先は日本国内に限らず、海外にも開拓しています。」というコンセプトにより、多くの紹介事業者から行政手続き(労働局への取扱地域の変更届)がなされたことがあります。

ただ、このホワイトカラー職種(特に生産管理、技術開発などの職種)の国外への再就職先紹介には、「海外への頭脳流出に手を貸すのか」という批判が一部にあり、製造業を親会社とする人材紹介会社が手続きを断念するという場面もありました。「国外にも再就職先を開拓すべき」と奔走していた担当者から「頭脳流出を心配するのなら、雇用し続ければいいのに、片方で希望退職を募ったり転身プランを強化して人材を放り出しておいて『海外に転職してはいかん』と一方的に言うのはスジが通らない。」という憤慨を聞いたことが今でも思い出されます。

その後、競業避止義務についての判例が集積されたり、不正競争防止法の改正が為されましたので、今現在では、上述の国外再就職推進派の方の言い分は「雇用し続けられなくても応分の割増し退職金などの処遇をすればいいのに。」となるべきなのでしょう。

先日の、新日鉄住金と韓国ポスコ間の製造技術の不正取得を巡っての損害賠償請求訴訟の報道をみると、人材自身の遵法精神にも言及しているわけですが、自社の退職者に対して多額の損害賠償を請求していることについて考えさせられます。お金だけではなく「貧すれば鈍する」ことがないような退職者処遇が、紛争防止の手立てのひとつになり得るのではないかと感じさせられます。

最近の「国外にわたる職業紹介」手続きの動向では、日本人中高年の海外職場の開拓だけでなく、広くグローバルに人材を求め、勤務地も日本国内に限らない指向を感じさせるものが多くなっていますが、未だ発展途上国などからの日本の技術者への求人やスカウト依頼には、「技術援助(盗用?)」と「頭脳流出」が紙一重に混在している事例もあり、「職業選択の自由」と照らし合わせて悩ましいところです。しかし、見方を変えれば、最終的には雇用期間中・雇用終了後を通じての、人材に対して遇する心・金・交流が大事ということを示しているようにも思います。

一方で、2年前の2010年7月からの改正入管法施行により、日本の労働法制適用が明確となり、「国外にわたる職業紹介」の仕組みに組み込まれた「技能実習制度における団体監理型受入れ等」ですが、先日の厚生労働省「最近における技能実習生の労働条件確保のための監督指導及び送検の状況」報道発表をみると、技能実習制度での紹介先の雇用主の労働基準関係法遵守状況は、昨年度2,748件の監督指導案件のうち2,252件(82%)で法違反があり、23件が送検されるという状況で、目に余るものがあります。無料もしくは有料の職業紹介事業者である中小企業によって構成された組合の紹介による雇用先が、上記報道発表の数の内どの位を占めるのか、詳細は詳らかではありませんが、もし同様の傾向があるとすると、背筋が寒い思いがいたします。

と、申しますのは、職業紹介事業者たる上記「組合」の構成員は、「組合から技能実習生の紹介を受ける雇用主」である訳ですから、ホワイトカラー紹介事業者では当たり前の「あっせん事業者と雇用主の責任分担の区別」が、一般のケースに比べて不明確である可能性があると推測するのです。言いかえれば「紹介事業者・雇用主グルになった労働法違反」とすら見えなくもないわけで、そんな組合(紹介事業者)に許可をしてしまったり届出を受理してしまったりした行政の責任問題にもつながりかねないと思う次第です。

前段触れましたアウトバウンド的な人材の移動と、後段申し述べましたインバウンド的労働移入も、双方「グローバルな人材移動」と「国外にわたる職業紹介」の話なので、これを区別せずに論議をすると妙な結論になってしまいそうです。実は国内の転職就職紹介の中でも、「失業されてしまった方の再就職支援」と「バーゲニングパワー(対企業競争力)ある人材の流動支援による経済活性化」を一律に論じてしまう陥穽と同じになってしまうことに気付きます。

言語や法制度だけでなく、文化の多様性の理解を必要とする国際的な職業紹介が、単に安価な労働力の確保や企業秘密漏洩を唆す労働移動と混同され、同じ「職業紹介」というレッテルを貼られて批判のキャンペーンにさらされないよう、ホワイトカラー紹介業は襟を正していく必要があるように思います。

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)

【岸健二一般社団法人 日本人材紹介事業協会相談室長】