労働あ・ら・かると
今月のテーマ(2012年12月)人材排出業界か人材輩出業界か?
12/1から大学卒業者の就職活動が「解禁」となり、街にリクルートスーツをよく見かけるようになりました。
友人知人である大学就職センターの相談員から聞く話では、最近の学生さんの就職活動の中で、増えた質問は「応募先企業の離職率やうつ病発生率」だそうです。厚生労働省は、以前から新規学卒者の離職状況について集計し発表してきました。離職については、よく「離職率の七五三」と言われることがあります。これは、新卒者が就職後3年以内に辞める割合が中学卒で7割、高校卒で5割、大学卒で3割だというようなことです。こうしたことは、過去このあたりのデータを元にコメントされてきたようです。
実は、この現象は20年前、30年前でもそう変わらずあった傾向だとも思うのです。しかし、「右肩上がり」の時代の離職のその後は、何らかの形で他業界や他職種に転職されていたのだろうと推測するものの、昨今の状況では離職後の進路がどうなっているのだろうかと気になるところです。
「古き良き時代」の中規模以上の企業の早期離職者であれば、名刺の出し方をはじめとした礼儀やビジネス文書の書き方など、ビジネスパースンとしての必要最低の教育は受けている人材として、転職市場でも「第二新卒」などと呼んでそれなりの求人とのマッチングもできたのですが、最近の経済情勢下での状況はどうなっているのでしょうか?
おそらく今年が初めてだと思うのですが、冒頭申し上げた厚生労働省データでは「産業別離職状況」も併せて公表されています。
これをみると、産業分類(大分類)では、学習塾など「教育・学習支援業」(48.8%)や「宿泊・飲食サービス業」(48.5%)で、3年経過後(調査では平成21年就職者が)半数近くが辞めており、政府が雇用の受け皿として力を入れている「医療・福祉」業界も離職率が38.6%と4割に迫っています。いずれも、マスコミでは、長時間労働や賃金が低いといった理由があるのでは、とコメントされていました。
上述したデータでは、離職率が低い産業界は「鉱業、採石業、砂利採取業」(6.1%)、「電気・ガス・熱供給・水道業」(7.4%)、続いて「製造業」(15.6%)、「金融・保険業」(18.9%)と古い印象のある産業が並び、離職率の高い産業は、一見労働集約産業が多いように見えます。もちろん教育・学習支援業界などでは、教員への就職浪人期間中に勤務していて、目指す教員試験に合格してのキャリアアップ転職も含んでいるに違いないと、希望的に推測したりもするのですが、しかし、ここで挙げられた産業界での3年程度での離職が、もし、いわゆる「ブラック企業」に就職してしまっての離職だとすると、「古き良き時代」の話どころではなく、日本社会にとっての「人材潰し現象」なのかもしれないと思い背筋が寒くなります。
「うつ」の発生状況にしても、本人と労働環境との関係(相性)をよく見定める必要があるものの、いわゆる非正規社員の増加や不景気による雇い止めの影響が、正規雇用のいわゆる正社員にしわ寄せされているのではないかとのお話を聞くこともあります。要は「はたらく」環境や、研修体制などを、企業側の一方的な情報であるHP等だけでなく情報収集する必要があるということだと思います。
就職活動を開始した学生さん達には、上記のようなデータはデータとして把握しても、更にWebだけでの情報収集でなく、是非とも先輩を複数訪ねて‘生の声’を聞いての就職活動をお勧めしたいところです。そうすれば、いわゆるブラック企業を避けることがある程度でき、「新卒で就職後、仮に数年、十数年後に転職して業界を変わったとしても、それまで居た業界は、あなたという人材を<輩出>した業界であって、けしてあなたが<排出>された訳ではない。キャリアを積むことができるような道を歩き始められる。」という言葉を、就職活動中の学生さん達に贈ることができると思います。
なお、冒頭のデータを含む平成21年3月新規大学卒業者の3年目離職率(28.8%)などの若者雇用関連データは下記にあります。
http://www.mhlw.go.jp/topics/2010/01/tp0127-2/12.html
(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)
【岸健二一般社団法人 日本人材紹介事業協会相談室長】