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労働あ・ら・かると

今月のテーマ(2013年5月)「要実務経験」求人と‘カッコウの托卵’

内閣の規制改革会議や、日本経済再生本部の産業競争力会議において、労働者派遣制度と並んで職業紹介事業の規制緩和(改革)論議が喧しくなされていますが、現状に追加しての規制緩和の必要性の有無はともかく、今の状況でも、外部労働市場の中で民間職業紹介業が果たす役割は、その量も責任もどんどん大 きくなってきており、更に民間の活力をうまく活かした社会を実現していくべきことには、余り異論はないように思います。

職業紹介に限らず、求人広告(情報)においても、労働者派遣においても、求人企業や派遣先企業から各事業者への要件には、その長さや程度にはいろいろあっても、数十年前から「要実務経験」という条件が付されていることが多い状態は、今でも変わっていません。

また、求人広告(情報)業界は、従来から新卒需要の仲介機能も果たしてきたと思いますが、職業紹介(人材紹介)業界では、スカウト型事業者の取扱いではもちろんのこと一般登録型でも、その取扱いのほとんどは「中途採用」「経験者採用」の領域です(※スカウト型、一般登録型については、「労働あ・ら・かると」2009年11月12月をご参照ください。)。

雇用主側の求人ニーズの希望として、「即戦力」を要望する気持ちはよく理解できるわけですが、視点を思いきり広角にしてみる時、私の脳裏には表題の「カッコウをはじめとした鳥の托卵」のことが思い浮かびます。

間もなく開館10年になる動物画で著名な「薮内正幸美術館」の受け売りのように聞こえるかもしれませんが、カッコウは托卵すると、卵の数の帳尻を合わせるために仮親の巣の卵をひとつ外に落としてしまうそうです。私には、なんだか中途採用を多量に行った企業が、その 後の不況で解雇を行っている姿や、年功序列で安穏としていた社員が能力主義の導入で右往左往してしまう姿と二重写しになってしまうのです。

荒唐無稽な仮定ではありますが、もしカッコウしか住んでいない森があったとして、その時カッコウはどこに托卵するのでしょうか?お互い托卵し合うのでしょうか?

以前、いわゆる「第二新卒求人」を求める急成長企業や中堅企業の求人者の採用担当とお話しする機会があった時、異口同音におっしゃっていたのは「当社は、新卒を採用してから社会人としてのマナーのいろはを教えている余裕はない。大企業で基本を教わった人材を採用し たい。日本の大企業のOJTや研修力は素晴らしい。」ということでした。その時に「あ、この企業はカッコウのようだ。」と思ったわけです。もちろん「カッコウが悪い鳥だ」というつもりはありません。むしろ生きていくため、子孫を増やしていくための、その知恵に感服するわけです。

しかしながら、前述の「全てカッコウの森」の仮定のとおり、もし世の中の求人企業がすべて「経験者しか採用しない」と言い出したら、その社会はとんでもない自己矛盾に陥ってしまいます。

冒頭申し上げた規制改革論議などでは、余り話題に上がりませんが、戦後の職業紹介の歴史の中で「職業訓練校」が 果たした役割や、今は廃止されてしまった「アビリティーガーデン」での研修が果たした役割をもう一度思い起こしたとき、これからの「労働移動論議」の中 で、職種を変えなければならない場面での、研修訓練と職業紹介の有機的結合の必要性や、それこそ各種学校や専門学校職業紹介という「民間活力の中の二人三脚」の必要性を感じるわけです。

再就職支援型の取扱う転職、再就職の場面では、今までの経験職種や技能が時代の変化とともに陳腐化してしまい、必ずしも「即戦力」ではない人材の方々も多々いらっしゃいます。未経験な職種でも、興味があれば研修によって新たな職種の技能が身につけられる、そんな機 能と工夫が求められているのではないでしょうか。

注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。

【岸健二 一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長】