インフォメーション

労働あ・ら・かると

今月のテーマ(2013年7月 その2)社会福祉サービス・ワンストップ化の功罪

わが国の社会福祉行政は、制度的には2000年まで国が主体で制度設計、政策遂行がなされていた。その理由は、生活保護行政が、機関委任事務によって行われ、また社会福祉施設の措置費が、主に国庫負担により、まかなわれていたからであった。

しかし1980年代から90年代にかけて社会福祉改革が徹底して行われた結果、生活保護は自治体の管掌事務となり、高齢者福祉施設から措置費が外されるようになった。2000年から施行された社会福祉法によって、基本的に措置制度が廃止され、同年から発足した介護 保険制度でも、民間のサービス参入が奨励された。その一方で生活保護法は、半世紀を過ぎ、社会構造が全くといってよいほど変化したにもかかわらず、相変わらず苦しい運用を続けている。受給者の内容は高齢者の比率や慢性の疾患による保護受給者の比率が多い現状にあり、すでに制度疲労を起こして新たな仕組みを 構築しなければならないにもかかわらず、自治体のケースワーカーが困難を抱えながら行政を進めている。

このように、地方自治体の所管する社会福祉関係業務は大きくなる一方である。子育て、児童虐待、高齢者介護等新たなサービスがその比重を増大させる一方、従来からの障害者福祉、施設福祉、それに生活保護行政によるサービス負担も減少するどころか、ますます増加の一途を示している。他方、生活困難に直面する利用者にしてみれば、複合型の相談・援助について、各担当部署をたらいまわしされる苦痛と屈辱感がある。こうし た中で、最近になって福祉関連業務の効率化を目指した「包括的」かつ「伴走型」と呼ばれるワンストップ型の福祉業務体制が注目され、いくつかの自治体で実 際に行われている。具体的には野洲市、富士宮市、TOKYOチャレンジネット、豊中市、千葉県中核地域支援センター等である。

この福祉行政のワンストップ・サービス体制は、すでに韓国で実践されている。たとえば韓国・京畿道では、福祉行 政のワンストップ・サービスのほかに少子高齢化や中高年の自殺問題などの取組みや病気や失業、災害等で危機的な状況にある家庭を迅速に支援する「危機家庭 無限ケア事業」、親が働いている間子どもを安全に預かる「子ども安心学校」、公的・民間サービスを連携調整する「無限助け合いセンター」などのサービスがある。行政施策上、一見わが国の先を行っているように見える。

しかし、この業務内容が招来する問題点も指摘しておかなければならない。今年になって韓国では、社会福祉担当の自治体職員がすでに4人も自殺したという。その原因を特定することはできないが、自治体サービスに福祉関係業務が過重な負担となっている、という点が指摘 される。韓国自治体では、福祉関連であれば一般業務の職員はそこに参入をするということはなく、「丸投げ」の状態になるという。その原因は、社会福祉関係業務が「国家資格」による職員によって担われているからである。しかし、その資格は社会福祉系大学を卒業して得られた「準専門的」なものでしかない。窓口 に現れる全生活に困難を抱えた被相談者のニーズに、十分にこたえ切れるという保証はない。複数の業種に専門性が求められ、さらに個別化したケース相談にワ ンストップで答えていくのは、相応の実務経験が必要になる。にもかかわらず、資格の有無だけで複雑な福祉関連のすべての業務を担わなければならない、とい うところに根本の問題がある。わが国の福祉行政場面でも、この問題は十分に留意する必要がある。ワンストップ・サービスの普及には、業務の簡素化、効率化 を伴った慎重な取り組みを考えなければならないといえる。

【日本大学法学部教授矢野聡】