労働あ・ら・かると
今月のテーマ(2013年8月 その2)課長の悩みを考える―その1「部下の育成・指導について」
最近、各調査機関等の管理職についてのアンケート結果をみると、管理職とりわけミドルマネージャーといわれる課長の悩みが列記されています。
管理職は将来会社を背負っていく幹部候補生であり、企業のトップ層が大いに期待をかけていますが、課長業務の実態や諸アンケート結果をみるにつけ、課長が抱える問題点,悩みはいろいろあります。自分の努力で是正できる部分もありますし、会社組織全体が関わってくる問題もあります。いずれにせよ諸問題を解決していくことが本人・会社双方にとって大変重要であることは間違えのないところです。
課長の仕事はいろいろありますが、中心の業務は「部下の育成・指導」と「部門目標の達成」でしょう。諸々のアンケート結果をみると、多くの課長はプレイングマネジャーでプレイヤーの仕事が半分以上の人が約5割近くになっており、日常業務が中心で、課長の重要業務といわれている「部下の育成・指導」、「部門目標の達成」に十分時間がとれないことに頭を悩ましています。
それでも「管理者として今の担当業務を続けたいか」の問いに対して、「自分にあっている仕事であるので長く続けたい」との回答者が約2割、「当面は続けたい」が約6割、「自分に合わない、成果が出ないので変わりたい人」が約1割、「どちらとも言えない」が約1割等となっています。経営幹部への第一ステージにいるにはいまいち「覇気不足」ではとも感じられます。報酬については「役割に見合って適正である」が約43%、「役割に比べて高い」3%、「役割に比べて低い」33.3%、「どちらとも言えない」20.6%となっています。
誰でも管理職になることが難しい時代に、期待される幹部候補生になれるポストに就きながら「積極的に仕事を続けたいという人が低く」、「処遇に満足していない人」が比較的多いというのはなぜなのか、別の調査で課長に「最終的になりたい立場・役職」を聞いたところ、13.4%が“プレイヤーに戻りたい”との回答でした。
最近の若者は、管理職よりも自分の好きな仕事ができる専門職志向が強いとの話もあります。管理職を積極的に望まない要因がどこにあるのか、指示待ち族で育ったせいなのか、組織のフラット化等で業務量が増加し、管理的な仕事ができなくなって嫌気がさしたのか、仕事が大変な割には報酬が伴っていないのか、部下の働く意識が多様化して、従来以上に管理の仕方が難しく、神経を使わざるを得なくなったのか、もともと管理職に向かない人が課長になっていたのか等様々な原因がかんがえられますが、課長の悩みのもっとも多いのが「部下がなかなか育たない」「後継者の育成が不調」などの回答です。諸調査機関で多少数字は異なりますが、上記項目が全体の3割強から4割強を占め、それが増加しつつあります。「部下・後輩の育成」は冒頭に記述しましたように課長業務の主要の一つであり、それが満足にできないことによる自責の念の表れかもしれませんし、課長の悩みの次に多い比率を占めているのが「業務が多すぎて余裕がない」がありますが、そのことに対する企業への不満ということにも受け止められます。「育成してあげたくともしてあげられない」といった自分に対するいらだちもあるかもしれません。
部下育成が難しくなった要因としては、業務の増加とともに、職場の状況が変わっていることも考えられます。今までは部下は、正社員が中心で自分より、勤務年数が少ない人が一般的でしたが、現在は、年上の部下や職場の在籍年数の長い部下、専門性の高い部下、非正規社員の部下、短時間勤務者、外国人社員等部下が多様化し、育成するのに手間暇がかかり、自分の代わりをする部下が育っていないとなるとお手上げになるというのが実態です。
このままでは将来を担う管理職が希望を持って企業の成長発展に向けてチャレンジをしていく気持ちを持続することは難しくなります。課長が心に余裕をもって担当部門の業務を部下の育成をしながら達成できるようにするためには、何をしなければならないかを本人、会社は早急かつ真剣に考えていく必要があります。
改善の視点は大きく二つあります。一つは、課長の担当部門と課長自身に何が期待されているか、自分として何がしたいのかの方針を課長自身が明確に持つことです。
担当部門の主要な業務を質量の面から簡潔に洗い出し、必要性の低い業務は廃止か削減し、新たに目指すべき業務を追加するなど業務内容を抜本的に見直すとともに優先順位をつけ、それを踏まえた人的資源の投入で業務の高度化とスピード化を図ることです。
課長自身は今後会社が取り組むべき課題を見つけて、その目標に向けてチャレンジし、達成します。そのためには、自己啓発、外部研修等で知識やマネジメント能力を高め、新たな目標の達成に努力をしている姿を部下に見せることが大切です。
もう一つは、「部下・後輩の育成」です。課長がマネジメントに注力し、部下の能力を高め、育成をしていくためには、課長の仕事の一部をそれが遂行可能な一般職の上級従業員に漸次委譲していくことです。仕事・権限は委譲しても管理責任は当然課長にありますから、部下がどのように取り組んでいるか、業務の進捗状況の報告を受け、必要に応じて相談・指導は行います。上級従業員も業務の一部を中級従業員に委譲します。必要性の低い業務を廃止・削減することでこのような仕事の循環が回るはずです。
このような考えを各組織で実施するようになれば、従業員全体が能力やチャレンジ精神を高め、早めにいろんな経験をさせることができますので部下の育成と活力ある組織の構築におおいに資することになります。多くの経験を通して指導・育成することは効果のある方法ですが、その前提として常日頃のコミュニケーションをよくとり、お互いの信頼関係をベースに実施することがより効果を高めることになるでしょう。
このようなことを各課長が実施やすいように支援するのが上司の部長であり役員・トップ層の役目です。課長が活発に上司に意見が言える環境をつくり、その意見を受け止めて重要な仕事を任せていく度量のある会社組織にし、課長の取り組んだ内容等を公正に評価し、処遇に反映させていくことができれば、課長の意欲や能力はさらに高まり、常に後継者が育ち、企業は持続的に発展・成長することが可能になります。
【MMC総研代表小柳勝二郎】