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今月のテーマ(2013年8月)若年失業問題と就業ミスマッチ

わが国の新卒者雇用制度(いわゆる就活)ほど、ほぼ制度化し、若年者雇用に配慮して熱心な活動を続けている国を他には知らない。他の多くの国の場合、いったん就労すると労働組合の権限が強い分、既得権の維持に走り、結果的に新規労働者の参入が難しくなる。国際労働機関(ILO)によれば、世界の全年齢の失業率が6.0%なのに比べ、若年層の失業率は12.6%と、2倍にも及んでいる(2013年見込み)。実数でいえば約7300万人の若者がたとえ十分な教育を受けていても働けない状態である、という結果がある。それに比べてわが国の事業主側は、年功序列制度の伝統から若年者雇用に熱心であったし、労働組合側もこの労働慣習を受け入れてきた。わが国では、キャリアがあり専門性に優れていても、中途採用であることがむしろ雇用の阻害要因になっている傾向がある。逆に未熟練で、将来会社に貢献する度合いが未知数な新卒労働者が、ただ新卒者であるという理由から採用される傾向にある。

国際的にみればそのように見えるが、しかし日本の若年層の失業率が決して低いわけではない。2012年の若年層失業率をみると、日本の場合8.2%である。この数字は同年の全年齢の平均である4.3%に比べると確かに高い。これを就活に代表される大卒でみると、今春卒の大学生の就職率は93.9%で、2年続きの採用上昇率である。大学生の場合、希望職種と実際の雇用のミスマッチはあるが、ほぼ内定をもらえるという環境にあると考えられる。しかし厚生労働省によれば、せっかく入社しても3年以内に離職する大卒者は2009年入社組で28.8%にも及ぶという。全就労者の4分の一に及ぶ離職者、という数字は注目しなければならない。

新卒者、といっても一概にその年の3月末で卒業したものをいうのではない。雇用対策法の2010年の改正によって、学校時の卒業者は卒業後3年間を新卒者とみなして、事業主側に通年採用や秋季採用による機会の拡大を迫った。また労働者の募集・採用に関しては、「年齢にかかわりない均等な機会の確保」が加えられ、柔軟な雇用が促された。しかし、先に述べた雇用のミスマッチの問題は、求人倍率の安定化ともかかわる問題である。リクルートホールディングスによると、来春の大学生及び大学院生の求人倍率は1.28倍で、昨年とほぼ同じであるという。これは職種をえり好みしなければ、就職にはほぼありつける数字ではある。ただ希望する職種の就職ないし具体的な会社への就職に失敗し、不本意な就労を行うものが、結果的に離職へと走るのかもしれない。あるいは希望の職種、企業に就職できても、厳しい内部環境についていけないのかもしれない。離職者という事実をとらえることは重要だが、離職しないような対策、という考え方がはたして成り立つかどうかは議論が分かれるところであろう。

ヨーロッパ・EUでは若年雇用対策を本格的に行う準備をしている。スペインが56%、ギリシャが59%に達する若年失業率は、経済の衰退どころか国内政情不安の要因になるからである。EUではオーストリアの例を見習い、学校卒業4か月以内に就職できない場合、政府の援助により職業訓練や企業研修制度を行って、成功しているという。この事例は、わが国の雇用ミスマッチにも応用可能である。離職者への政策として有効と考えられる。いずれにせよ、若者が、自分の思い込みだけではなく、客観的に自分の才能と力量に沿った労働の場を見つける手段を広げるための施策が必要である。

【日本大学法学部教授矢野聡】