労働あ・ら・かると
今月のテーマ(2013年10月 その2)職業を題材にしたTVドラマに思う
「倍返し」が今年の流行語大賞を受賞しそうな勢いの、銀行を舞台としたTVドラマが終わり、労働基準監督官を題材としたTVドラマが始まりました。
大学生に対するキャリア教育の必要性が叫ばれ、また最低必要な自分を守るための(そして人を雇う立場になった時のための)労働法知識の学習の機会を作ろうとする気運の中、現在の様々な職場や職業を題材としたTVドラマによって、その職種への理解が増えることは基本的に好ましいことと思います。
職業を題材としたTVドラマは、日本でのTV放送が開始されて間もなく放映されています。
読者の皆さんの中で、団塊の世代の方々はご記憶でしょうが、1960年前後には、アメリカから輸入された弁護士ドラマの「ペリーメイスン」、日本の警察を舞台とし、毎回警視庁の通信指令室の映像から始まる「ダイヤル110番」、警視庁記者クラブを舞台に描かれた「事件記者」があり、1970年は、「太陽にほえろ!」、「Gメン‘75」、「はぐれ刑事」といった刑事警察官もの、1980年になると「3年B組金八先生」(正確には1979年~だが)の教師もの、と定番の刑事もの、1990年代以降はドラマそのものの多様化故に、士師業や警察官などの「職業」に加えて、目立たなかった職業を取り上げるケースも出てきたように思います。
2007年放映の「ハケンの品格」という人材派遣スタッフを主人公としたドラマは、保有する資格免許の類がおおよそあり得ないフィクションであっても、定時にピッタリ帰る(本来は派遣労働者に限らないことなのですが)設定など、‘新しい働き方’を提起しているという面では、注目に値するものでした。
一説によると、判りやすい解説で有名なジャーナリストの池上彰氏は、子供の頃TVドラマの「事件記者」を視て新聞記者を志し、その後‘あさま山荘事件’のTV生中継を見て、TVに進路を変更したそうです。
俳優の方を軸におさらいしてみても、木村拓哉さんが演じた現代の実際にある職業は、ピアニスト、美容師、検事、操縦士、カーレーサー、脳科学者、総理大臣、インテリアメーカー社長と、多様です。TVを通じて、消費者として見るだけだった職業の内実を知ることは、良いことだと思います。
少なくとも今回始まった労働基準監督官にスポットを当てたTVドラマは、筆者の記憶では、単発ものはともかく、連続TVドラマとしては史上初めてのことではないかと思い、この職業についての理解が進むことを願います。
しかし、一方でフィクション性に重きを置く余りなのか、TVドラマの中にはあり得ない設定がまかり通ってしまっているケースも見られ、そのセリフに眉をひそめたくなることもあります。
私も大ファンの女優の方が主演する医師ドラマで、前シリーズではまずテロップに「女ハケン VS.」なる言葉が表示されるものがあります。読者の皆様はご存知のとおり、医師の派遣はまだ日本では許されていないのに、です。そして医師紹介所の所長が「私は彼女のマネージャーです。」という労働者供給事業者まがいの自己紹介をしたり、病院に請求書を持参したりする場面があります。さすがに、手術報酬(賃金?)を医師に代わって受取る場面が見当たらないのが救いですが、この間反復継続型職業紹介事業において、職業紹介手数料以外の賃金の請求と代理受領(労働基準法第24条違反)についての行政指導が、重点課題であったことなどご存知ないのではないかと思います。
一昨年放映された「家政婦のミタ」に登場する晴海家政婦紹介所では、そのような基礎知識欠如の場面は見当たりませんでした。今韓国でチェジウさん(韓国ドラマブームの火付け役となった「冬のソナタ」のヒロイン役)主演でリメイクされ「怪しい家政婦」という題名で放送中と聞きますので、前述の「ハケンの品格」韓国リメイク版の「職場の神」同様、日本での放映が楽しみです。ちなみに韓国では、日本の職業紹介制度に類似した制度による「家政婦紹介業」がありますし、労働者派遣制度もあります。そこがどう描かれるのかも興味あるところです。
もちろん職業TVドラマは、当該職業に就いている方達にとっては「ありえない!」の連発であることが暗黙の了解事項なのかもしれませんし、フィクション性を損なってはドラマの面白さが半減してしまうことは百も承知で野暮を申し上げれば、フィクションといえどもその設定がその職業への誤解を助長するものでないことを願い、派遣と紹介を混同したようなセリフがまかり通ることのないよう、しっかりした方の監修を受けられることを望みます。
今回の労働基準監督官を題材としたドラマを通じて、この職業についての理解が進むと同時に、雇う側がしてはいけないこと、雇われる側が知っておかなければおけないことの知識が普及することを願います。
(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。)
【岸健二一般社団法人 日本人材紹介事業協会相談室長】