労働あ・ら・かると
今月のテーマ(2013年11月)日本の労働法制
・最近の著書
『なぜ景気が回復しても給料は上がらないのか―労働法の「ひずみ」を読み解く』(倉重公太朗、近衞大、内田靖人著・労働調査会・7月刊)という、刺激的な表題の新書がでた。経営法曹に属する気鋭の若手弁護士である著者たちが現在の労働法に疑問を投げかけた内容で、なかなか読み応えがある。
・どこが問題か
現在の労働法のどこに問題があるのか。著者たちは言う。
(1)雇用関係の中身である労働条件を現実に適合するよう調整できない(就業規則の不利益変更法理)、(2)能力のない従業員を解雇できない(解雇権濫用法理)、(3)正規従業員をふやせず、人手不足で長時間労働がなくならない(過労死問題)、(4)労働時間法制に合理性がなく、ダラダラ残業がなくならない(事務労働に適合しない法制)、(5)労働者個人の不満をとりあげる合同労組は、企業との日常的な労使関係を欠き、団体交渉が有効に機能しない(厳しい金銭解決)。
確かに的をえた指摘で、なるほどと思う人は多いであろう。これだけ的確に指摘されると、労働法の「ひずみ」は否定できない。
・どうすればよいのか
それなら、著者たちは、労働法はどうあるべきだと考えているのであろうか。
第1に、雇用流動化政策として、(1)解雇の金銭解決制度(就労年数や解雇の性質に応じた金銭補償)、(2)転職市場の整備(ジョブカード、EVQ制度、短時間正社員)、(3)流動化阻害要因の除去(退職金の優遇税制、多元的な年金制度、配偶者控除等)、第2に、労働者の能力開発(職業訓練の充実、再学習の促進等)、第3に、労働条件の企業内流動化(不利益変更法理の緩和)、第4に、新たな労働時間制度(ホワイトカラーエグゼンプション、裁量労働制の拡大、時間貯蓄制度)、あわせて7つの「処方箋」が示されている。
・今後の労働法制
残念なことに、現在労働法は次第に実効性を失ってきている。外国でも、「労働法の危機」を指摘する文献にはこと欠かない。著者たちの指摘(「ひずみ」、「処方箋」)は、日頃実務のなかで感じられる切実な実感であろう。
新しい法制度の要求は、今年春に出された日本経団連の『労働者の活躍と企業の成長を促す労働法制』でも論じられている。「厳格な雇用保障責任」の限定化として職種・勤務地限定契約が説かれ、「実態に対応していない労働時間管理」として、裁量労働制、フレックスタイム制、変形労働制の見直し等時間規制の弾力化が指摘され、「労使自治を重視した労働条件変更ルール」が求められている。
こうした観点からみると、著者たちの新書がはたしている問題提起の意味は重く大きいというのが、私の読後感である。
【上智大学名誉教授・弁護士山口浩一郎】