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今月のテーマ(2013年12月)モーターショーと「運転職」という職種が消える悪夢

秋も深まり、自動車ショー(東京モーターショー)の時期となりました。筆者も小学生の頃に見学に行った記憶があるのです が、第1回目は1954年に日比谷公園を会場にしてのショーなのですから、わが馬齢に合点が行きます。自動車ショーの歴史をひも解けば、製造技術の歴史が 判ると言っても過言ではないと思います。またグローバル化の時代、同時期にアメリカや中国本土でも同様のショーが開催され、市場の大きさから日本のものよ り出品社数などの規模が大きいと聞きます。これも「時代」なのでしょう。

自動車についての21世紀に入っての技術開発は更に目覚ましく、また自動車というも のが、製造技術の集大成の頂点にあることも異論はないと思いますが、職種という視点においても、職業分類の大分類「I輸送機械運転の職業」の中に「66 自動車運転の職業」が中分類の項目となっているのは、周知のとおりですし、運転免許の保有者数も8121万5,266人(警察庁交通局運転免許課平成23 年公表)、内第二種免許保有者は216万0,801人ということなので、タクシーや旅客輸送バスの運転手さん、自動車「も」運転する営業職の方などを含め れば相当数の方が「自動車を運転する」職業についていると言えると思います。

今回の自動車ショーやここ数年の自動車に関する新技術の報道で気になるのが「自動停 止技術」や「運転手不要技術」、「運転手不要で自動運転が可能で、なおかつ目的地に到達すると自動的に駐車することを可能とする技術」の開発です。高齢化 社会が到来する中、逆走事故の報道記事を読むと、運転者の年齢が高いことに視線が行きます。これらの新技術開発が、高齢化社会の到来を見据えた側面がある ことは否めないでしょう。

確かに未だに原発事故の影響から脱することのできない地域や、過疎化の進む地域に伺 うと、ハンドルにしがみつくような姿勢で軽自動車を運転している高齢者の方を見かけます。「眼が悪いので、眼科への通院に必要なので運転している。」と言 うお婆ちゃんに出会い、「危ないから、さすがにそれは止めたほうがいいのでは?」と思ったのですが、「車を運転しないと、ここでは病院に行くことすら不自 由。」と更に言われ、言葉を失ったことがあります。

21世紀になって若者の「車離れ」も言われる中、都会と地方の自動車の使い方の差を 考えると、職業としてではない運転需要についても地域格差を感じざるをえませんが、高齢ドライバーの増加を原因とする交通事故増を防止するための技術開発 について、その必要性を感じるのは当然のことと言えます。

しかし、一方で、バスの車掌さんという職種が、ワンマンバスの発達によって職業分類 表(厚生労働省平成24年3月改訂)には見られなくなっており、「車掌」という職種の細分類項目が「681-01鉄道車掌」と「681-02バスガイド」 のみになっている現実や、自動券売機・自動改札機の発達によって「出札改札員」という職種((前掲職業分類表/大分類C-事務的職業/中分類30-運輸・ 郵便事務の職業/小分類301旅客・貨物係事務員/細分類301-01運輸出改札・旅客係)の従事者数が、恐らくここ数十年で激減しているであろうことに 想いを馳せると、「運転手不要」を目指した技術開発の行き先が、「交通事故減少(あるいは増加防止)社会の到来」を目指していると同時に、「運転職種従事 者数激減社会」に向かっている側面をどう捉えたら良いのか、困惑する自分がいます。

認知症の老人が踏切に入って起きてしまった事故の報道を読むと、総務省統計局日本標準職業分類の平成9年改訂の際に「就業者数が極めて少数である」とし てから削除されてしまった「踏切警手」という職種の方がいれば、このような事故は防げたのではないか(「踏切の自動化」では防げなかったのではないか)と 思うのです。

 既に20世紀前半にチャペック(1890~1938)により提起された「機械文明の 発達がはたして人間に幸福をもたらすか否か」「ロボットは人間を幸福にするか?」という古くて新しいテーマについて述べた、50年前の恩師の「人間の労働 をロボットが代わって行うことで、人間は人間でなければできないことに時間を費やすことができるし、人間でなければできないことをする人間になるべし。」 という言葉を思い出します。

今年8月にベトナムのホー・チ・ミン市に行った際、地元で大人気の「回転しゃぶしゃ ぶ店」に行きました。 回転すしの技術を応用したこの店は、言葉がさほど通じなくても食事を楽しむことができてとても美味しく、たくさんのベトナム人家族が楽しんでいる様子は、 ベトナムに新しい食文化を生んでいるように思えて楽しい食事でしたし、日本でも「回転寿司」という自動化技術(すし握りロボットとコンベア技術、鮮度管理 技術、その他)に裏打ちされた新しい店舗形態が、「寿司の庶民化」を実現したことは間違いないのですが、一方で「目の前で握ってくれる寿司店」と「寿司職 人」の減少という側面があることにも目が行ってしまうのです。

また、今年3月にミャンマーを訪問した際、 マウン・ミイン労働・雇用・社会保障大臣が「ミャンマーの雇用を創り出すために、日本には労働集約型産業の進出を期待したい。」とスピーチしていたことを 思い出しました。それと同時に、過去はバスの車掌さんや改札係に就職したような人材、コツコツと無事故を願って踏切警手を務めたような人材が、今の時代ど のような産業のどのような職種に就いているのか(或いは就職できていないのか?そもそも日本にはいなくなってしまったのか?)を知りたいと思いました。

新技術の開発が「人間を楽にする」筈が、「人間の職を奪う」ことにつながっていないかを検証し、また別の視点で「人間でなければできないことをする」職業の創出の必要性を胸に、今年の自動車ショーを見学したいと思います。

(注:この記事は、岸健二個人の責任にて執筆したものであり、人材協を代表した意見でも、公式見解でもありません。) 

【岸 健二 一般社団法人 日本人材紹介事業協会 相談室長】